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シーン⑫
一週間ぶりのデート。
場所は先週と同じ水族館。
颯太のデート相手の澪は前日の記憶を35分しか引き継げない。
だから同じ場所で覚えるまでデートする。
それを提案したのは颯太だった。
澪にとっては初めての水族館デート。
颯太にとっては二度目のデート。
でもそんな違和感は颯太には関係なかった。
好きな人とデートをする、ただそれだけだった。
髪の毛はセットせずに自然にした。
服装は先週と同じく、白いシャツに緑の羽織、黒いパンツ。
待ち合わせ時間には10分前に着いた。予定通り。
先週が早すぎたため1つ後の電車にしたらちょうどよかった。
翌日、再び水族館で待ち合わせをした。しかし、澪は、俺のことを覚えていなかった。
「あの…、もしかして、望月颯太君、でしたっけ?」
俺の名前を、日記を頼りに思い出す彼女。俺は、またもや胸が締め付けられるような、複雑な気持ちになった。
「昨日も来たんだよ、この水族館に。俺と二人で」
俺がそう言うと、澪は少し不満そうな顔で答えた。
「えー、ずるい。覚えてる記憶は一緒がいい」
彼女の言葉に、俺は一瞬戸惑う。しかし、そのわがままな言葉の裏には、記憶が継続しないことへの不安や孤独感が隠されているように感じた。彼女は、一人だけ昨日のことを知らない、という事実が寂しかったのだ。
俺は、澪のわがままを受け入れた。いや、受け入れたというよりも、その寂しさを埋めてあげたいという気持ちが勝った。今の俺は、彼女のどんなわがままも受け入れられるくらい、彼女に惚れこんでいた。
「わかった。じゃあ、今日も昨日と同じように、全部一緒に見よう。いや、昨日よりもっと楽しくて、もっと最高の思い出を作ろう!」
俺がそう言うと、澪は嬉しそうに微笑んだ。
それから、俺たちは毎日、水族館に通った。
二回目、三回目、四回目…回を重ねるごとに、俺は澪の好きなものや、ちょっとした癖を覚えていった。クラゲが好きで、イルカショーの時にはいつも興奮したように手を叩く。ペンギンの歩き方を真似して笑い、大きなジンベイザメの水槽の前では、いつまでも動かずに眺めている。
そんな毎日を過ごすうちに、俺は水族館のことを完璧に覚えてしまった。どこの水槽にどんな魚がいるか、ショーの時間、美味しいレストランのメニュー。全てが俺の頭の中にインプットされていた。
そして、そのためにバイトを頑張って稼いだお金は、あっという間に消えていった。でも、後悔なんてなかった。このために、俺はバイトをしていたんだ。
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