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シーン⑩

「カフェ・ドゥ・ソレイユ」のドアが開く。

ドアにかかっている鈴がなる。

今日も1人のお客さん。

彼女は何度も来ている常連だが、

彼女はいつもまるで初めてかのようにケーキを楽しむ。


それもそのはずだ。

彼女は前日の記憶を35分しか引き継げない。

彼女がケーキの味を覚えるまでに何回来店するのだろうか。


「いらっしゃいませ。ご注文は?」

「日替わりケーキをください。」

いつも通りの注文を受ける。


最初の方は来るなりチーズケーキを頼んでいた。

しばらくすると日記を見てから日替わりケーキを頼むようになる。

今では何も見ずに日替わりケーキを頼む。


普通なら段々と覚えてきてると思うだろう。

でも彼女には記憶は無い。

もしかしたら記憶に残ったのかも、と期待をしたが今日入ってくる前に店の前で日記を見ている彼女を目撃した。


ただ日記の記憶。

それでもここに通い続けてくれることに嬉しさを覚える。


「お待たせしました。本日の日替わりケーキのチーズケーキになります。」

餌を待ちきれない動物のように、ケーキが来るなりそれに目が釘付けだった。

その姿に愛おしく思う。


待ちに待ったケーキをフォークで取って口に運ぶ。

清楚な容姿に似つかわしくないほど大きな口にチーズケーキが運ばれる。

そんな見栄を張らないところもまた素敵だ。


そして颯太が彼女に惹かれる一番の魅力がこの後だ。


ケーキを頬張って、世界で1番幸せかというような笑みを浮かべる。

きっとこの先どんなに嫌なことが起きてもこの笑顔で全てが報われると颯太は思った。


「美味しい!」

その言葉で耳から全身を癒していく。


颯太は確かめていたのだ。

この感覚の正体が何なのか。

推しとしての感覚なのか。それとも。


いや、答えは既に出ていた。

 

彼女の事情を知ってなお、彼女の記憶に残りたいと思う。

彼女と一緒に過ごしたいと思う。







さらに数日後、澪がまた一人で「カフェ・ドゥ・ソレイユ」を訪れた。俺は、彼女の病気のことを知って、どう接していいのかわからなかった。


しかし、彼女が再びフルーツタルトを美味しそうに食べ、幸せそうに微笑む姿を見て、俺の心は決まった。


「笹川さん、好きです!」


俺は、カフェのカウンターから、大声で告白してしまった。澪は、一瞬驚いたような顔をした後、クスッと笑った。


「…ごめんなさい」


「…ああ、ごめん。変なこと言って…」


俺は、申し訳なさそうに謝った。


「何か、手伝えることがあれば…」


俺がそう言うと、澪は再び日記をパラパラとめくり、まるで思い出したかのように、目を輝かせて言った。


「水族館!」

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