第3話 Ep.02:異端と正統

アカデミー中央第2演習室。 正面には三面の巨大スクリーンが並び、それを取り囲むように、階段状のオペレーター端末が無数に配置されている。


さらに、その全体を俯瞰する位置に、天井から張り出した指揮観察ブースが設けられていた。


レイは、その観察ブース内で4人の統括補佐官――バイス・コマンダーとの初会合に臨んでいた。


「まずは僕からだ。僕のバイス要請に応えてくれた君たちに感謝する。ありがとう」


統合戦略指令官に選出された学生は、演習において司令官を補佐し、数百に及ぶ戦術オペレーターを統括する補佐官を指名できる。


「レイ、感謝するのは俺たちの方さ。俺たちの成績で、まさかバイス要請が来るなんて思ってもいなかった。レイがチャンスをくれたんだ」


「そうね。でも、よく教授連中がこんな“変態クラブ”を認めたわね」


マイク・ミルズとケイト・ウィンズレー。 二人は数少ないレイの理解者であり、レイ自身が強くリスペクトしている才能の持ち主だ。


「下級生の僕たちが指名されるなんて、光栄ですけど……。特に目立つ実績もありませんし、上級生から反感を買わないか、少し心配です」


「ほんとに。私で務まるのかなって……」


色白で学者風の5学年学生、トーマス・ラドウィッシュ。 同じく5学年で、伏し目がちなヒロミ・サトウも、不安を口にする。


総括大演習ゼニスは、原則として最上級生全員が参加対象だ。だが、統括補佐官にはその学年制限がなかった。


「まずな、そんな胆の小さい奴は、このアカデミーにはいない。仮にいたとしても、気にするな。みんな、俺が気まぐれで選んだと思ってるさ」


「君たちの無限の才能を、無駄な感情で縛りつけるなよ。僕は、君たちの――息を潜めた闘争心と、一瞬の閃きに期待している」


「まあ、何があっても責任は全部この俺様だ。ちゃんと処理してやるから、心配すんな。がっはっはっは!」


レイの強みの一つは、僅かな感情の揺らぎを捉える繊細なレーダーと、それを意に介さず踏み潰す無神経さを、同時に備えている点だった。

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一方、リリアは隣接する中央第1演習室の観察ブースにいた。 リリアのもとには、統括補佐官を志願する学生が殺到していた。その結果、彼女は多彩かつ盤石な人材を揃えることに成功する。


その中には、教授枠推薦筆頭――エレーナ・アシュフォードの姿もあった。 左腕と右足をギプスで固めたエレーナが、オペレーターデスクにもたれている。


「本当はさ、リリア。お前と正面から戦いたかったんだ。まあ、戦略戦じゃ敵わないけどさ。それでも二、三発は食らわせる自信、あったんだ」


エレーナは肩をすくめ、苦笑する。


「まあ、こんな体でよけりゃ、今回はあの“ヘナチョコ変態戦略家”を叩き潰すの、手伝わせてもらうよ」


「ありがとう、エリー。作戦プランには、最初からあなたを組み込んでいたの」


リリアは静かに続ける。


「その変態戦略家を叩き潰すには、エリーが絶対に必要なの。でも無理はしないで。ドクターに脅しをかけて退院したことくらい、分かっているわ」


「さすがだな。リリアに隠し事は無理か」


エレーナは軽く息を吐き、笑った。


「まあ、体が動かない分、頭と口で働かせてもらうよ。期待は裏切らないよ、リリア」


軽くウィンクすると、エレーナは他のバイスたちが集まるテーブルへ向かった。


「よう、ナディアじゃないか。さすがリリアだ。あたしたち極端すぎるからさ、正統派の優等生が要ると思ってた」


ナディア・ウェルハート。 5学年学生主席。派手さはないが、根拠に基づく堅実な作戦運用で、机上演習の勝率は8割を超える。


「私も、エレーナさんがいると心強いです。実戦でも机上でも、力技で状況を全てねじ伏せられる人、他にいませんから」


「はは、それ褒めてるのか? まあいいや、よろしくな」


エレーナは周囲を見渡し、頷く。

「あとは、数学オリンピックのチャンピオンのボルグと……おっ、飛び級のアンジェラか。よろしく頼む」


即座にチームをまとめ上げていくエレーナの姿を、リリアは頼もしく思った。


(今回ゼニスは私たちを、後手の守備側に決定した。相手はレイ――判断を一つ間違えれば、酷く残酷で、絶望的な戦場になる)


(エリー、屈服という言葉を持たないあなたがいてくれるだけで、このチームは、最後まで耐えられる)


リリアは、万全の体制で《ゼニス》に臨めると、静かに確信していた。

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2026年1月19日 19:00
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「碧の誓約 ―双弓の守護者―」 サイラス・バン・ダイン @bravo33

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