第2話 Ep.01:宣戦布告
レイが山盛りの食事トレーを抱え、食堂を進む。その動線の先に立つ、一人の女性士官候補生。
彼女を見つけた瞬間、レイはトレー越しに満面の笑みを向けた。
「やあ、ミス・シュタイナー。相変わらず群れないな。昼食はもう済んだのかい?」
リリア・シュタイナー。 6学年学生主席。このアカデミーにおいて、6年間、彼女の座を脅かした者は一人もいない。
左腕にモバイル端末を抱え、右手にはエスプレッソのペーパーカップ。 眼鏡の奥の、碧く澄んだ瞳は動かない。
「昼食は取らないわ。午後の感覚が鈍るから。一人なのはお互い様じゃないかしら? もっとも、君の場合はマイペースすぎて、誰もついて来られないだけでしょうけど」
(……リリア様は、何でもお見通しのようで)
レイは軽く肩をすくめ、気を取り直す。
「明日からよろしく。君とゼニスで戦えるなんて光栄だよ。アイス……いや、失礼。ミス・シュタイナー」
「こちらこそ」
リリアは一拍置き、淡々と言葉を続けた。
「マックス……ジェスターだったかしら。教授枠繰り上げ推薦での出場、おめでとう。ただし、本気で来て。遊び半分で来るのなら、許さないわ。――ミスター、レイランド、マクシ、ミリアン」
一瞬だけの鋭い視線がレイを射抜く。 それは、先の課題演習での一件を指していた。 少数部隊による基本戦術を無視し、包囲された状況で全方位作戦を選択。結果は、部隊の全滅。
しかしその一方で、レイは過去の演習において、圧倒的に不利な戦況を幾度も覆してきた。
その特異な戦略思考は、一部教授陣から熱狂的な支持を集めている。
リリアはそれ以上、視線を交わすことなく、レイの横を通り過ぎ、食堂を後にした。
輝くプラチナブロンドの髪はきつくシニョンにまとめられ、一糸の乱れもない。
残されたレイの周囲には、微かだが、甘く、シャープな残り香が漂っていた。
(俺はいつだって本気なんだけどな、アイス)
リリアの背を目で追い、レイは小さく溜息をつく。
あの演習では、あと一歩というところで端末が数秒フリーズし、決定的な好機を逃していた。
なぜかレイの端末は、重要な局面でだけ、必ず微かなフリーズが生じる。
(リリア・シュタイナー。外見は完璧な天使、中身は超絶悪魔。百戦無敗のアイスドール……くぅーっ、痺れるぜ、君との対戦)
一人勝手に昂ぶるレイ。 その様子を、食堂にいるすべての学生が息を潜めて見守っていた。
羨望、嫉妬、尊敬、軽蔑――あらゆる感情が交錯する視線。 だが、当の二人はそれをまったく意に介していない。
総括大演習では、主席卒業予定者と、最も多くの教授推薦を受けた学生が、AB各軍を率いて対戦する。
本来であれば、4割近い推薦を集めていた学生が出場するはずだった。
だが、その学生は実戦演習中の不慮の事故により辞退。 結果として、わずか2割の推薦しか得ていなかったレイが選抜されたのである。
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