六話 二人からの依頼
オルロは暫く頭を冷やすと言って蜂蜜飴を受け取った後に仮眠室へと足を運び、カムリムはメリッサと共に働き蜂が依頼や情報を整理している事務所にて次なる任務先への書類を手にとり、椅子に座って蜂蜜飴をバリバリと噛み砕きながら雑談をしていた。
「私は別にそんなに気にしてたってわけじゃないし」
「そう?僕には君が彼らを睨みつけたように見えたけど」
ふふーんと鼻歌を吹かしてカムリムが片目を瞑る。
よく見てるな本当に。
状況を俯瞰的に見ることができる彼のことだ。
恥ずかしさを誤魔化すためにわざと渋面を浮かべる。
カムリムは体内に沈殿していた穢れた空気を深呼吸で排気した。
「あんまりオルロの言う事を真に受けないでね?やり返さない優しさも君の強さだから」
蜂蜜飴をまた口へと放り込み、舌の上で弄ぶように転がす。
「カムリムは?」
栗鼠さながらに飴玉を僅かな頬袋に寄せていたのかコンマ数秒、会話にブレが生じる。
「……度が過ぎれば無言で殴ってたと思う」
「無表情で殴りかかる方がオルロよりも怖いよ」
幾ら冷静とは言え、限界値を超えて仕舞えば誰であろうとキレる。
我慢する方が体に悪いのだろうけど、どうしても私にはそんな勇気が出ない。
「でも、たまに君らが羨ましいと思う時もあるよ」
「どういう時?」
再び沈黙が訪れる、その間にカムリムの目は女王に謁見していた時と同じ何も写像を移すことのない虚な眼窩が嵌っている。
再びカムリムが口を開く。その一言はどこか諦観めいたような他の謡蜂を羨むような口調で
「声質」と答えた。
「え?私はカムリムの甘いシルキーボイス毎回聞いてもいいなって思うけど」
「直に分かるさ」
私の褒め言葉ですら真正面から受け止めることなく、カムリムは背凭れに肘をおいてそっぽを向いてしまった。
変に他人の地雷を踏んでしまった感覚だ。状況打開の方向性を見失ってしまった。
「……こんな声じゃなければあんなことも起きなかったんだろうけど」
ぼそっとカムリムが放った一言を私は聞き逃したフリでやり過ごす。
「ねぇ、カムリム……お得意様のお子さんを殺したって女王様言ってたけど」「君には関係のない話さ」
若干食い気味にはぐらかされた。
「ちょっと最後まで」「はいはいはい、話は終わり。僕は他の任務に出向くから、また後で」
私の言い分を許すことなく捲し立てる様に早口で告げられ、颯爽と資料と自分用の蜂蜜飴の瓶を片付けて歩き去っていく姿をみて呆然としてしまう。
取り残された私は二日後まで任務や依頼がないので暫く暇を潰さないといけない。
生活棟にでも戻ろうか、それとも書架に入りびたる?
どうしようかな〜。
目的地のない歩みを進めながら思案していると、同僚の謡蜂がお〜いと叫びながら駆け寄ってくる。
「メリッサ〜、貴方へお手紙が届いているよ」
「あ、ありがとう」
宛名を見ると、イヴレフ・ブラッディムとあった。
「ブラッディム?」
どこかで聞いたような苗字だ。
ブラッディム?ブラッディ、ん?そうだ!思い出した!
あの時の列車に乗っていた二人組の男性の方!
早速手紙を開き、丁寧な筆記体で描かれた文字に目を通す。
【拝啓 メリッサ・ナスタチウム】
以前列車内でお会いしたイヴレフ・ブラッディムと申します。
謡蜂である多忙な貴殿のことですから、無茶な依頼をお送りしてしまうことをお許しください。
依頼としては貴殿の歌をお聞きしたいのです。
側仕えの騎士であるフレン・コルヴァスもご希望です。
差し支えなければ貴殿の方からご希望の日にちのお手紙をいただければこちらもそれ相応の準備をしてお待ち申し上げております。
【敬具 イヴレフ・ブラッディム】
歌を歌い、誰かを喜ばせるのは好きだ。
けど、初見の人に対して歌ってみて、石を投げられたのも一度ではない。
私の歌に興味を持ってくれるのはありがたいけど、どうしても削ろうが擦ろうが消えてくれないトラウマが
私は……。
引き出しから便箋一つ取り出して、インクにペンを浸す。
数日後、約束の日がやってきた。雲一つない快晴。
列車にのり、目的地であるヴェイユを目指す。ヴェイユは王都に次ぐ一大都市として名を馳せており、人口も多い分、依頼も多く、報酬である蜂蜜飴もかなり弾んでくれるそうだ。
私は辺境の街しか行ったことがないので人混みの中は少し苦手だ。
大自然の中で悠々と歌えるのは非常に贅沢な時間だとも思うが、たまに大勢の前で歌ってみたいというのも事実。
昼と夜の境目が半々になった季節のように胸を弾ませる気持ちと一抹の不安の双方がぶつかり合い、上昇気流に沿って積乱雲を発生させる。
兎も角、今日の依頼はイヴレフとフレンの二人のみ。
癖の強い歌声とハスキーボイスだけど、気に入ってもらえるだろうか。
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