三話 悪魔の世代
ルデナ公国内にある謡蜂の本拠地。通称:蜂の
六角形状に棟が六方を塞ぐように並び、中央には
一度玄関に入って受付を済ませ、報酬の蜂蜜飴を食料庫の方へと届けに向かう。
謡蜂は基本的に食事の必要はないが、水分や蜂蜜飴は別だ。
蜂蜜飴がないと、体の中で必要な栄養素を媒介できず、十五日で死に至ってしまう。
貰った飴の大半は預け、残りの瓶詰された飴は自分の食糧となる。
歌った後に食べる蜂蜜飴の味は格別だ。かなりエネルギーを消耗しているので断食明けに飲む食物並みに旨い。
早速口の中で転がしながら、口の中で湧き立つ柑橘系の爽やかな香りと独特の甘みを楽しむ。
今回は蜜柑から採取した蜂蜜かと独りごちる。
「ん〜、美味しい」
バリバリと噛み砕き、嚥下する。
「おう、メリッサ。また石投げられたんだって?」
ヤスリのようにザラついた濁声。食事を初めて早々、右上がりの感情に水を差された気分だ。
「何?オルロ。またちょっかいでも掛けにきたの」
オルロ・グラジオラス。
メリッサと同じく謡蜂の一員であり第八二三期生から輩出された同期。
金髪に黒とブルーアメジストのメッシュを入れたウルフヘア。夜明け前の空を思わせる紫の瞳。
メリッサと同じ謡蜂のローブを羽織り、黒いダボっとしたズボンに脹脛の半分まである焦茶のブーツを着用している。
構ってちゃんなのか、よく他人にちょっかいを出しているのは昔からだ。小さい頃はよく大人たちを揶揄って追いかけられていたっけ。
私たちが所属していた第八二三期生は「悪魔の世代」と呼ばれており、総じて異端扱いされている。
独特の癖、歌い方、全員がほとんどの謡蜂とは一線を画す存在だった。
当然、悪魔と言われて良い気はしない。
何でこんなにも腫れ物扱いされないといけないのか。不満しかない。
「心配してるんだよ、数少ない同期なんだし。呪歌でやり返せば良いじゃんか」
最後の一言にピキリと額の血管が内側から圧力を掛けられ隆起する感覚に襲われる。
「ねぇ、オルロ。今の取り消して」
「なんでよ、何か悪いことでも言ったか?」
世界を癒すことが謡蜂の信条である以上、御法度である呪歌を歌うことなど言語道断。それにー。
悪怯れる素振りもないのにはどうにも気に入らない。
「分からないなら、話しかけてこないで。不愉快よ」
「あーあー、悪かったって」
面倒臭そうに後頭部をガリガリと掻いているあたり、反省する気がないのは目に見えている。
何かを視界に含んだのか、横目に誰かを見やりながらニヒルな笑いを浮かべている。
「どうしたの?」
「そういや、ウチにもいたなって。呪歌で人殺したやつ」
刹那、ドスの効いた声が耳元で囁いた。
「何か言った?」
思わず退いてしまう。よく見れば見知った顔がオルロの肩に手をかけていた。
「カムリム」
カムリム・ヴァイオレット。
メリッサの同期で、金髪にターコイズブルーとオレンジのメッシュを入れたショートヘア。血のように紅い瞳が威圧感を放っている。
以前呪歌で人を殺してしまい、半年の謹慎処分を受けていた。
「オルロ、君の挑発するような
「いや〜数少ない同期が逸れ者にならなくてよかった〜。なぁ、メリッサ」
「……。」
わざと無視を決め込む。
「頼むぜカムリム本当に、お前が欠けたらその分の圧が俺ら二人に降りかかるだろ」
「やり返す程度に呪歌を歌う君に言われたくないけどね。それ以上歌って喉壊されても困るよ、君のバリバリに効いたエッジボイスが聞けなくなったらやだよ、僕は」
「カムリム、それには同感よ」
「だよねぇ、よく分かってるじゃんメリッサも」
三すくみさながらに啀み合い、ライバル扱いしつつ時には仲間思いなことを口から零す。互いに不器用なゆえに踏み越えてはいけない一線を踏み越してしまうこともしばしばだった。
けど三角形を描くような手綱で結ばれ、断崖絶壁の足場に立たされても尚、落ちないように助け合う三人の間に絆があるのは確かだ。
「ほら、さっさと行こう。私たち三人女王様がお呼びなんだから」
「あ〜、報告したら次は女王様のところか〜。面倒だな」
「報告しないと次の仕事が回ってこないよ」
「へいへい」
十歳の頃から謡蜂になって約八年。正直、トラブル起こしまくっても誰も欠けずに来たのは奇跡に近いと思うが、これも女王蜂の温情か。それとも、外的要因を担う組織が癒着しているのか。
メリッサはこれ以上無駄なことを考えるのは止めにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます