第9話:最強の通行止めと、帰還へのタイムリミット
王都まであと二日。
馬車の車窓から王都の尖塔がうっすら見え始め、「あー、帰ったらまず麦茶飲もう」なんて考えていた私を、絶望の知らせが襲った
「聖女様、道が……街道が封鎖されました。この先には進めません」
カイルさんが、かつてないほど厳しい顔で報告に来た。
聞けば、街道沿いの山に『火龍(ファイア・ドラゴン)』が居座り、そこを通るものすべてを焼き払っているという。
「王宮騎士団が討伐隊を編成中ですが、結成までに一日、討伐にさらに数日……。聖女様、残念ながら王都入りは一週間ほど遅れるかと」
「一週間!? ダメだよ、それじゃ始業式に間に合わない! 欠席はヤバいの!」
私の悲鳴は、カイルさんには「聖女としての使命感」に聞こえたらしい。彼は苦渋に満ちた表情で拳を握りしめた。
■ 異世界流「交通障害」の突破術
ドラゴンのブレスで赤く染まる空を見て、私はスマホのタイマーを確認した。
異世界と日本を繋ぐゲートが開くのは、あと48時間。それを逃せば、私は一生この世界で「聖女」として、高校生ではなくあの軽いノリの神様に仕える人生を送ることになる。
「カイルさん、討伐を待ってちゃダメ。……交渉に行くよ」
「なっ……正気ですか!? ドラゴンは言葉の通じる相手では……」
「言葉は通じなくても、『メリット』は通じるはず!」
私はカバンの中をひっくり返した。
残っているのは、聖地で神様からもらった「謎の光るガラス玉」と、日本から持ってきた最後の一袋……『超大粒のミントタブレット(激辛)』。
私たちはドラゴンの鼻先まで近づいた。
山ほどデカいトカゲが、街道のど真ん中で「グルルル……」と喉を鳴らしている。どうやらこのドラゴン、ただ暴れているんじゃない。喉に何かが詰まってイライラしている様子だ。
「カイルさん、気を逸らして! 私があの口の中に『これ』を投げ込むから!」
カイルさんが決死の囮となって跳び回る隙に、私はドラゴンの巨大な口を目掛けて、ミントタブレットの塊と、神様のガラス玉を投げつけた。
刹那、ドラゴンの口内でミントの猛烈な刺激が爆発し、神様の力が鼻腔を突き抜けた。
「――グ、グヴォォォォォォン!!(ハッカの刺激で大クシャミ)」
ドラゴンの鼻から、詰まっていた「巨大な騎士の盾(の食べ残し)」がスポーンと飛び出し、あまりの爽快感に、ドラゴンはそのまま空高く舞い上がってどこかへ飛んでいってしまった。
「……え、それだけ、ですか?」
呆然とするカイルさんに、私は時計を見せて親指を立てた。
「よし、道は開いた! カイルさん、ここからは全力疾走だよ! 王都まで48時間耐久マラソン、スタート!」
【数ヶ月後のネット掲示板の反応】
1400:名無しの読者
最終局面で「ドラゴンの鼻詰まりをミントで治す」って展開、誰が予想できたよww
1405:名無しの読者
> > 1400
> > 「ドラゴンのブレスの仕組みは、喉の奥の燃焼器官にある」っていう細かい設定を出しつつ、最後は「クシャミで解決」っていう落差。この作者、天才か?
> >
>
1410:名無しの読者
作者コメント:
「風邪を引いた時に鼻が通らなくてイライラする気持ちを、ドラゴンに代弁してもらいました☆」
……ドラゴンの被害に遭った村の人たちの気持ちも代弁してあげて。
1415:名無しの読者
いよいよ次が最終回か。あの「カイルとの別れ」をどう書くのか、全読者が全裸待機してるぞ。
煙を上げる街道を、私たちは駆け抜けた。
私の背中を守るように走るカイルさんの姿を、私は二度と忘れないだろう。
あと少し。あと少しで、私の「夏休み」が終わる。
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