第7話:聖地のお土産事情と、失われた「旅の情緒」

聖地での儀式(とのど飴の献上)を終えた私は、カイルさんを連れて、神殿の麓に広がる門前町へと繰り出した。

私の脳内には、日本の有名観光地にあるような光景が広がっていた。

「聖地」の焼き印が押された茶色のまんじゅう。あるいは、三角形の布に金糸で『聖地』と刺繍されたペナント。そして、木彫りの龍が巻き付いた謎のキーホルダー……


(やっぱり、旅の締めくくりはお土産ショッピングだよね!)


鼻息も荒く、私は並び立つ露店の一軒に飛び込んだ。


■ 意識が高すぎる聖地のお土産

「いらっしゃいませ、聖女様。こちら、神殿の加護を受けた『清浄なる水晶の粉末』です。毎日少しずつ水に溶かして飲むことで、魂が洗われますよ」


「……え、粉? 飲み物?」


次の店に行ってみる。


「こちらは『聖なる滝のしずくを凍らせた永久氷』です。溶けることはありませんが、手に持っているだけで煩悩が消え去ります」


「いや、煩悩は消したくないかな。人は生きてる限り煩悩はあるもんだしね」


三軒目。

「巡礼の証として、こちらの『100節からなる神への讃美歌が刻まれた石板』はいかがでしょうか。重さはわずか20キロです」


「いらない! 20キロ背負ってあと三週間歩けってこと!?」


私はガックリと肩を落とした。

どこをどう探しても、バラマキ用の「聖地まんじゅう」もなければ、部屋に飾るための「ペナント」もない。

あるのは、やたらとスピリチュアルで実用性のない、意識の高い聖遺物ばかりだった。


「……カイルさん。どうしてこの世界には、もっとこう……『聖地に行ってきました!』って一目でわかる、軽くて安くてちょっとダサいお菓子とかがないの?」


「だ、ダサい……とは? 聖女様、聖地の品はどれも高潔でなければならないのです。食べたらなくなってしまうものや、布きれを壁に貼るなど、神への冒涜になりかねません」


カイルさんは真剣に説いているけれど、私は知っている。

旅の思い出の本質は、その「しょうもなさ」にあるのだということを。


【数ヶ月後のネット掲示板の反応】

1105:名無しの読者

最新話、アカネが「ペナントがない!」ってキレてるの面白すぎるだろww

異世界の聖地まで行って、探してるのが「昭和の観光地の定番」かよ。

1110:名無しの読者

> > 1105

> > でも、作者の「お土産論」にはちょっと共感した。「高尚な聖遺物より、一箱1000円のまんじゅうの方が旅の終わりを実感できる」っていう。

> >

>

1115:名無しの読者

あの「20キロある讃美歌の石板」の設定、笑ったわ。実際に中世の巡礼者は石板を持ち帰った例もあるらしいから、またしても無駄に歴史的考証が細かい。

1120:名無しの読者

作者コメント:

「結局、一番いいお土産は自分用の自撮り写真と、現地で食べたものの味の記憶ですよね。……あ、カイルさんには結局、実用的な『魔力回復のハーブティー』を買ってもらいました(笑)」

やっぱりカイルが財布扱いされてて草。


結局、私は自分用のお土産として、露店の隅っこで見つけた「聖地の虹を閉じ込めた」という触れ込みの、ただの綺麗なガラス玉を一つだけ買った。

まんじゅうには程遠いけれど、光にかざすと、あのハイテクな神様がいた水晶の神殿を思い出す。


「カイルさん、見て。これ、私の世界にある『ビー玉』に似てるんだ」


「びーだま、ですか? ……確かに、聖女様の瞳のように澄んでおりますな」


またカイルさんがサラッと恥ずかしいことを言う。

私は赤くなった顔を隠すように、ガラス玉をポケットに突っ込んだ。


「さあ、帰り道も長いよ! 明日からは『復路・食べ歩きツアー』の開始ね!」


「……御意。胃袋の加護も、神殿で祈っておけば良かったですな」


私はカイルさんの冗談に笑いながら、二つの月が昇り始めた聖地の街を歩いた。

王都への帰り道。

私の「空想」という名の「実話」は、いよいよ折り返し地点を過ぎて、完結へと向かっていく。

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