第5話:街道のならず者と、私の「最強のお供」

巡礼の旅も中盤。

聖地へと続く山嶺の峠道で、ついに「ファンタジーあるある」なイベントが発生した。


「おいおい、見ろよ。上等な身なりの騎士様に、ありゃあ上玉の聖女様じゃねえか」


岩陰から現れたのは、ボロ布を纏い、下卑た笑みを浮かべた十数人の男たち。手には錆びた剣や斧。旅人を狙う野盗団だ。

現代日本なら即110番通報モノだけど、ここは異世界。


(あー、やっぱり出るんだ。でもこれ、カイルさんに任せて大丈夫かな? 多勢に無勢だし……)


私が内心「最悪、スマホのフラッシュ機能で目潰しでもするか」と操作を確認していた、その時。


「聖女様、三歩お下がりください。……いえ、五歩。返り血が、その美しい装束に触れぬように」

カイルさんの声のトーンが、一瞬で変わった。


いつも私のワガママに振り回されて「聖女様、勘弁してください……」と弱りきっていた面影は、どこにもない。


■ 騎士(本職)の「無双」は、舞のように

「やっちまえ!」という野盗の合図とともに、三人の男が同時に斬りかかる。

しかし、カイルさんは抜刀したことすら見えない速さで、一人目の手首を、二人目の膝を、三人目の剣の柄を叩き伏せた。


「……ッ!? な、なんだと!?」


カイルさんは一歩も引かず、最小限の動きで襲いくる刃をすべて受け流し、あるいは峰打ちで無力化していく。

ただ強いんじゃない。動きに一切の無駄がない。

鋭い剣戟の音が響くたび、野盗たちが文字通り「ゴミ袋」みたいに地面に転がっていく。


「貴殿らが聖女様の御前で剣を抜いた罪、本来ならば万死に値する。……だが、慈悲深き聖女様の旅を血で汚すわけにはいかぬ。消えよ。次はないぞ」


冷徹なまでの美声。

最後の一人が腰を抜かして逃げ出すまで、わずか数分の出来事だった。


「聖女様。お待たせいたしました。お怪我は?」


剣を鞘に納めたカイルさんは、何事もなかったかのように微笑んで私の元へ戻ってきた。

……いや、紹介された時に、一人でも私を守りきれる一騎当千の騎士だと聞いていたけれど、まさかここまでとは。

イケメンで最強クラスの騎士って、こんなの惚れちゃうでしょ。まあ、真面目すぎるのが玉に瑕ってやつだけどね……


【数ヶ月後のネット掲示板の反応】

910:名無しの読者

カイル無双きたあああ!!

今まで「ただの苦労人ガイド」だと思っててごめんw さすが王宮騎士団の若きエース。

915:名無しの読者

> > 910

> > アクションの描写が妙にリアルなんだよな。「多人数を相手にする時は常に立ち位置を調整して一人ずつ相手にする」っていう戦術、武術の経験者が書いてるとしか思えない。

> >

>

920:名無しの読者

っていうか、カイルが超かっこいいシーンの後に、ヒロイン(朱音)が「カイルさん、今の動画に撮りたかったー!」って叫んでるのが台無しすぎて最高。

925:名無しの読者

作者コメント:

「運動会の部活対抗リレーを見てて、速い人ってかっこいいなーと思って書きました☆」

……運動会レベルのスピードじゃないだろ。物理法則どこ行った。


「カイルさん……すごかった。本当にかっこよかったよ!」

私が素直に拍手すると、カイルさんは「もったいないお言葉です」と耳まで真っ赤にして俯いた。


(よし、今のうちに「騎士の護衛付きで行く! 異世界・治安の悪い峠の越え方」って見出しでメモしておこう)


私はカバンから取り出したスマホに、今の戦闘の記憶を「ファンタジー小説の設定」として書き留めた。

カイルさんはそれを、私が神の啓示を記録しているのだと信じて、さらに身を引き締めている。


「さあ、カイルさん。お腹空いたでしょ? 今日は奮発して、王都で買った高級ワイン(の代わりの果実酒)を開けちゃおう!」


最強のお供を従えた私の旅。

聖地へのゴールは、もうすぐそこに見えていた。

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