第2話:初めての宿場町と「聖女」のVIP待遇

王都を出てから数時間。

慣れない石畳や草原を歩き、ようやくたどり着いた最初の宿場町『エルム』。


夕暮れに染まる町並みは、オレンジ色の街灯(カイルさんによると魔石というもので光っているそう)がポツポツと灯り始めて、まるでテーマパークの閉園間際のようなエモさだ。


「聖女様、あちらが本日の宿です。巡礼者を迎えるための由緒正しき宿屋でございます」


カイルさんが指差したのは、立派な木造三階建ての建物。入り口には聖地の紋章が刻まれた旗がはためいている。

私が門をくぐろうとした瞬間、宿の主人が転ぶような勢いで飛び出してきた。


「お、おおお……! あなた様が、此度の巡礼を担われる聖女様でございますか!」


主人は地面に膝をつき、まるで神様でも拝むような手つきで私の手を取った。

……え、ちょっと待って。さっきまで道端で「このキノコ、毒かなぁ」とか言いながらカイルさんと揉めてた女子高生だよ、私?


■ 聖女様限定「至れり尽くせり」プラン

通された部屋は、スイートルーム並みの広さだった。

ふかふかのベッド、手織りのタペストリー、そして何より感動したのは……。


「聖女様のために、精一杯の『温水』をご用意いたしました!」


目の前に運ばれてきたのは、湯気の立つ大きな木桶。

この世界、お風呂は超贅沢品らしい。カイルさんが「私は井戸水で十分です」とストイックに言っている横で、私は遠慮なく一番風呂(桶だけど)を堪能した。


「ふぅ……。極楽。これ、バズるわぁ(※投稿できないけど)」


お風呂上がりには、宿の娘さんが「聖女様の髪を梳かせてください!」と瞳を輝かせてやってきた。

私のさらさら(自称)な黒髪は、この世界では珍しいらしく、「夜空の糸のようです……」なんてうっとりされる。


さらに、夕食は食堂ではなく部屋出し。

「聖地巡礼の無事を祈り、町一番の特産品を揃えました!」

と出されたのは、エルム名産の『岩塩漬けの白身魚』と『熟成チーズのオーブン焼き』。


(美味しい……! 聖女って、もしかして最高の職業なんじゃ……?)


【数ヶ月後のネット掲示板の反応】

512:名無しの読者

宿屋の主人が聖女を歓迎するシーン、描写が細かすぎて「もてなされてる感」がすごい伝わってくるw

515:名無しの読者

> > 512

> > 「お湯が貴重な世界での、木の桶に溜めたお湯の匂い」っていう表現、あれ実体験してないと書けなくないか? 湿った木の香りと、魔石で沸かしたお湯特有のわずかな金属臭……。

518:名無しの読者

作者のコメント:

「修学旅行の旅館で、友達とテンション上がった時のことを思い出して書きました☆」

……いや、絶対嘘だろw 修学旅行で「魔石の匂い」は嗅がないからな。

520:名無しの読者

てか、聖女パワーで無双するんじゃなくて「VIP待遇を全力で楽しむ」っていうスタンスが新しいわ。この作者、絶対いい性格してる。


私はお腹いっぱいになってベッドにダイブし、カバンからこっそり出した「スマホ」の画面を開いた。

もちろん電波はないけれど、オフラインで使える機能はフルに使えるから保存された画像を見返す。


宿の主人の必死すぎる笑顔。

カイルさんが「聖女様、はしたないです!」と怒りながらも、甲斐甲斐しく荷解きをしてくれている姿。

そして、部屋の窓から見える、月が二つ浮かぶ夜空。


「……これ、帰ってから小説に書く時、『月は一つでした』って嘘ついたほうがいいのかなぁ。いや、ファンタジーだし二つでもいいか」


私は日記代わりにメモ帳アプリを起動し、『聖女、初めてのチヤホヤを経験する』と一筆書き添えて、深い眠りに落ちた。

明日も早い。けど、この旅は想像以上に「美味しい」かもしれない。

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