第1話:異世界の歩き方(準備編)~まずは装備と買い食いから~
「いいですか、聖女様。これから向かうは険しき巡礼の道。心してかからねば……」
「カイルさん、ちょっと待って。話は後! まずはあそこ、あの露店に行きたい!」
王宮の重苦しい空気を振り切り、私が真っ先に駆け込んだのは、王都の目抜き通りにある市場だった。
召喚からわずか三時間。お供の騎士カイルさんは、私のあまりの切り替えの早さに呆然と立ち尽くしている。
(だって、見てよこの景色! RPGの世界そのものじゃん!)
石畳の両脇には、見たこともない果物や、ジュージューと音を立てる肉の串焼きが並んでいる。私は支給されたばかりの「路銀(ずっしり重い金貨袋)」を握りしめ、目を輝かせた。
まず私が買ったのは、丈夫な革の「バックパック」だ。
この世界の聖職者が使うような肩掛け袋じゃ、徒歩で一カ月以上の長旅で肩が死ぬ。
私は職人さんの店で、肩紐に分厚いフェルトを縫い付けてもらうよう特注した。これこそが「重い荷物を運ぶ現代の知恵」だ。
次に、「靴」。
「カイルさん、鉄板入りの重いブーツなんて無理。一番軽くて、足首を固定できる紐靴をください」
現地の職人は「そんな柔な靴で荒野を歩けるか」と笑ったけれど、私は知っている。長距離歩行で大事なのは、防御力じゃなくて「軽さ」と「クッション性」だってことを。
そして、私のこだわりが爆発したのは「保存食」だ。
「この『バキバキに固い乾燥パン』、これそのまま食べるの?」
「左様です。水に浸してふやかして食すのが旅の常識」
「……却下。カイルさん、市場で一番甘いドライフルーツと、ナッツと、あと塩漬けの脂身を細かくして。全部混ぜて固めよう」
これぞ、登山愛好家にはお馴染みの高カロリー行動食「トレイルミックス」の異世界版だ。
【数ヶ月後のネット掲示板の反応】
342:名無しの読者
最新話の「装備編」読んだ?
「靴底に弾力のある木の皮を敷く」って設定、実際に試した自作レイヤーが「マジで疲れない」って絶賛してて芝生えた。
345:名無しの読者
あの「ナッツと脂身の行動食」を実際に再現してみた猛者が現れたぞww
見た目はアレだけど、登山の非常食として超優秀らしい。作者、絶対に「向こう側」でサバイバル経験あるだろ。
348:名無しの読者
> > 345
> > 作者のコメント見た?
> > 「ダイエット中だったので、高カロリーなものを想像して書きました(はぁと)」だってさ。
> > 設定がガチすぎて、もう「異世界の歩き方」って呼んでるわ、この小説。
そんな未来の反響なんて知る由もない当時の私は、市場の片隅で、焼きたての「ポポ肉(大きな鳥っぽい何か)」の串焼きを頬張っていた。
「……んんっ! カイルさん、これ食べて! 外はカリカリ、中は肉汁ブシャーだよ! これ、一ヶ月分くらいパッキングして持っていけないかな!?」
「聖女様、そんな脂ぎったものを……。というか、まだ王都の門すら出ていないのですよ?」
私はスマホを取り出し、青空と串焼き、そして困り顔のイケメン騎士を背景に、最高の「旅の始まり」の一枚をパシャリと撮った。
(よし、準備万端。夏休みの異世界バカンス、スタート!)
これが後に、「伝説の異世界旅行記」として歴史に刻まれる(予定の)巡礼旅、最初の一歩だった。
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