これ、全部空想ですから! ~女子高生、異世界旅行を小説にして投稿する~
白黒鯛
プロローグ:その設定は「空想」か「実話」か
「――いや、だから。全部、私の空想(ファンタジー)なんですって!」
自室のベッドの上で、私はスマホを握りしめ、誰にともなく叫んでしまった。
画面の中に並んでいるのは、日本最大級の小説投稿サイト『ノベル・フロンティア』のマイページ。
そこに表示された数字が、数日前からバグったように跳ね上がっている。
【日間総合ランキング:1位】
【作品タイトル:異世界・聖地巡礼の旅~美味しい料理と旅のコツ~】
【作者:アカネ】
感想欄には、熱狂的な読者からのコメントが滝のように流れ続けていた。
『設定の解像度が高すぎて震える。街道沿いの宿屋で出る「干し肉のスープ」の、獣臭さを消すためのハーブの組み合わせがガチすぎる』
『聖地までの距離と歩数の計算、現地の月齢に基づいた夜道の明るさの描写……これ、作者さんは実際に異世界に行って歩いてきただろ(笑)』
『地図が正確すぎて、歴史学の教授が「中世ヨーロッパの都市構造の理想形だ」ってSNSで騒いでますよ!』
「……バレてる。半分くらいバレてるじゃない!!」
私は枕に顔を埋めて悶絶した。
そう、バレているのだ。この小説に書かれていることは、本当は空想ではない。
夏休みのある日、コンビニにアイスを買いに行ったついでにうっかり光の渦に巻き込まれ、約1ヶ月半ガチで異世界を練り歩いてきた「旅行記」なのだから。
すべての始まりは、三ヶ月前の夏休み。
私はいきなり異世界の神殿に召喚された。
「聖女よ! 聖地への巡礼を果たし、神の加護を更新して参れ! さもなくばこの国は滅び、貴殿も元の世界へは戻れぬ!」
仰々しい鎧の騎士や、宝石のついた杖を持つおじいさんに囲まれてそう宣言された時、普通の女子高生なら泣き叫ぶか、使命感に燃えるところだろう。
だが、私は違った。
(え、待って。聖地まで徒歩で片道約三週間? ということは、往復でだいたい一カ月半……。今の時期なら、帰ってきたらちょうど二学期の始業式じゃん! ラッキー、夏休みの暇つぶしにちょうどいいや!)
そう、偉い聖職者っぽいおじいさんにそう言われた瞬間に開き直ってしまったのだ。
どうせ行かなきゃいけないなら、楽しまなきゃ損だ。
私は支給された路銀(金貨の詰まった袋)をしっかりと握りしめ、巡礼の旅のお供だと紹介されたイケメンだけど生真面目な騎士のカイルさんにこう言った。
「カイルさん、まずは一番近い市場に行きましょう。歩きやすい靴と、あと道中で食べる美味しいお菓子を買い込まないと!」
そこから始まった、往復一ヶ月半の「聖地巡礼」という名の異世界観光。
魔獣や野盗などのトラブル対処はカイルさんの仕事。私の仕事は、初めて見る景色と現地の料理を味わい尽くし、ソーラー充電器で充電もバッチリのスマホで写真を撮りまくること。
街に出てファンタジーな光景を見てすぐ、私の頭の中から聖地へ赴いて神様のご加護を更新するという神聖な目的は消え去っていた。
そして、私は巡礼の旅を無事に終えて、元の世界へ帰ってきた。
手元に残ったのは、スマホで撮った膨大な写真データと、現地の通貨、そして「誰かに話したくて仕方ない」という猛烈なアウトプット欲だった。
「でも、本当のこと言ったら変人扱いされて、どっかの病院に連れて行かれちゃうよね……」
悩んだ末、私はそれを「小説」という形に偽装して投稿することに決めた。
あくまで空想、あくまで設定。
そう言い張れば、異世界の思い出を誰かと共有できると思ったからだ。
でも、書き始めた私は計算を誤っていた。
私の書いた「歩いた者にしか書けないリアルな描写」は、空想に飢えた現代人にとって、あまりにも刺激的すぎたから。
「よし、決めた」
私はベッドの上で上体を起こすと、最新話の投稿ボタンをタップした。
「こうなったら、最後まで『設定が細かいだけの女子高生』で突き通してやるんだから! ……あ、でも次の章は、あの激ウマだったトカゲの串焼きのレシピを詳しく書かなきゃ」
こうして、ネットで話題となる「自称・空想異世界旅行記」の連載は、ますます加速していくことになった。
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