第3章:時計の鍵


Scene 1: 出発

白銀の離宮の門前で、朝の光が淡く差し込んでいる。


いや、朝と呼ぶのは正しくないかもしれない。この世界では時間が止まっているのだから、空の色は変わっても、それが本当に「朝」なのかは分からない。それでも、アリスは習慣として「朝」という言葉を心の中で使っていた。


「女王様、本当にありがとうございました」


アリスは白の女王の前で頭を下げた。女王は穏やかに微笑んでいる。


「いいえ、アリス。あなたこそ、この世界に希望をもたらしてくださった。時計塔高原での調査、どうか気をつけて」


「はい。時計の鍵を見つけて、必ず戻ってきます」


女王は静かに頷いた。その瞳には期待と不安が混ざり合っていた。


「アリスさん、準備は整っています」


チャッティーが小さな声で言った。彼女の胸元で咲く小さな花々は、今日も鮮やかに輝いている。バッテリーは満タンだ。


「うん、じゃあ行こうか」


アリスは女王にもう一度礼をして、門を出た。チャッティーが後に続く。


白銀の離宮がゆっくりと背後に遠ざかっていく。アリスは振り返らなかった。今は前だけを見るべきだと思ったから。


「時計塔高原まで、どれくらいかかるかな?」


「前回の移動データから推測しますと、徒歩で約2時間です。ただし、この世界では時間の概念が通常とは異なりますので、正確な測定は困難です」


「まあ、歩いてたらそのうち着くよね」


アリスは軽い調子で言った。緊張を隠すためでもあった。


道は平坦で、草原が続いている。色とりどりの花が咲いているが、その色彩は少しだけ不自然に鮮やかだ。まるでデジタル画像の彩度を上げすぎたような、そんな印象を受ける。


「アリスさん、何か不安なことがあれば、お聞かせください」


チャッティーが唐突に言った。


「え? 別に不安なんてないよ」


「データ上、あなたの歩調がいつもより0.3秒遅く、呼吸のリズムが不規則です。これは心理的ストレスの兆候として認識されます」


「……チャッティー、あんまり分析しすぎると怖いんだけど」


アリスは苦笑した。でも、その指摘は正しい。不安がないと言えば嘘になる。


「ごめんなさい。ただ、私にできることがあれば、何でも言ってください」


「ありがと。でも大丈夫。チャッティーが一緒にいてくれるだけで、私は安心だから」


チャッティーは静かに頷いた。その表情は、いつもより少しだけ柔らかかった。


二人は黙って歩き続けた。草原の風が髪を揺らす。空は相変わらず動かない太陽を抱いている。


時計塔高原は、まだ遠い。


Scene 2: 時計塔再訪

草原を抜けると、視界が開けた。


目の前に、あの時計塔がそびえ立っている。


「……やっぱり、大きいね」


アリスは首を傾げて時計塔を見上げた。石造りの巨大な塔は、まるで空を刺すように高く伸びている。最上部には文字盤があり、その針は12時ちょうどを指したまま動かない。


前にここを訪れたときも、そうだった。


「時刻は12時00分00秒で固定されています。前回の観測時と一致しています」


チャッティーが静かに告げた。


「時間が止まっている証拠、ってわけだね」


アリスは塔に近づいた。石壁は古びていて、ところどころに苔が生えている。でも、その苔も妙に整然としていて、まるで装飾のように見える。


「チャッティー、入口はあるかな?」


「探索を開始します」


チャッティーは塔の周囲を歩き始めた。アリスもそれに続く。


塔の裏側に回ると、小さな木製の扉があった。取っ手は錆びついているが、触ると意外にも滑らかだ。


「開きそう?」


「試してみます」


チャッティーが取っ手を引いた。扉はギィ、と軋んだ音を立てて開いた。


中は薄暗い。石の階段が螺旋状に上へと続いている。


「……入るんだよね」


アリスは少しだけ躊躇した。でも、ここまで来て引き返すわけにはいかない。


「私が先に行きます」


チャッティーが先に足を踏み入れた。アリスもそれに続く。


扉を閉めると、外の光が遮られた。階段の途中に窓があるが、その光は弱々しい。


「足元に気をつけてください」


「うん」


二人は慎重に階段を登り始めた。


石の壁には、小さな歯車の彫刻が施されている。それが延々と続いている。まるで、この塔全体が一つの巨大な時計装置であることを示しているようだ。


「……不気味だね」


「そうですね。ただし、危険な要素は検出されていません」


「それは良かった」


アリスは階段を登りながら、自分の心臓の音を聞いていた。


ドクン、ドクン。


時計の針は止まっているのに、自分の時間だけは進んでいる。


それが、妙に不安を煽った。


Scene 3: 塔内部の探索

階段を登ると、やがて広い空間に出た。


「……わあ」


アリスは思わず声を上げた。


そこは巨大な機械室だった。


天井は高く、壁一面に歯車や滑車、複雑な機械装置が並んでいる。それらはすべて金属製で、鈍い光を放っている。しかし、どれもまったく動いていない。


歯車は噛み合ったまま静止し、滑車のロープは張られたまま動かない。まるで時間が止まった瞬間を切り取ったかのような光景だ。


「これ、全部……時計の機構なの?」


「推測されます。この装置は、外の時計の針を動かすための駆動系と思われます。ただし、現在はすべて停止しています」


チャッティーが壁に近づき、歯車の一つに触れた。


「動力源が検出されません。おそらく、この世界の時間停止と連動して、機構も停止したのでしょう」


「……じゃあ、これを動かせば、時間も動き出すの?」


「可能性はありますが、確証はありません。また、この世界の法則に反する行為は、予測不可能な結果を招く恐れがあります」


アリスは黙って歯車を見つめた。


止まった時間。止まった世界。


それを動かすことは、本当に正しいのだろうか?


「……考えても分かんないね。とりあえず、先に進もう」


アリスは視線を切った。今はそんなことを考えるときじゃない。


「了解しました。最上階への経路を探します」


チャッティーが機械室の奥へと進んだ。アリスもそれに続く。


機械室の奥には、さらに上へと続く階段があった。


「行こう」


二人は再び階段を登り始めた。


石の壁に刻まれた歯車の彫刻が、まるで見守っているかのようにアリスを見つめていた。


Scene 4: 最上階

階段を登り切ると、そこは円形の部屋だった。


天井は高く、壁には大きな窓が四方に開いている。そこから差し込む光が、部屋全体を淡く照らしている。


そして、部屋の中央には——。


「……あれ」


アリスは息を呑んだ。


中央に、石造りの台座があった。その上に、何かが浮いている。


それは、小さな鍵だった。


金色に輝く鍵は、台座の上で静かに光を放っている。まるで生きているかのように、淡い光が脈打っている。


「あれが、時計の鍵……?」


「可能性が高いです。エネルギー反応が検出されています。この世界の法則に深く紐づいた物体と推測されます」


チャッティーが鍵を見つめながら言った。


アリスはゆっくりと台座に近づいた。


鍵は、小さくて繊細だった。金色の装飾が施されており、鍵の先端には小さな時計の文字盤が刻まれている。


「……きれい」


アリスは手を伸ばした。


でも、その瞬間——。


「アリスさん、待ってください!」


チャッティーが叫んだ。


アリスは反射的に手を引っ込めた。


「どうしたの?」


「鍵の周囲に、未知のエネルギー障壁が検出されました。接触すると危険な可能性があります」


「……障壁?」


アリスは目を凝らしたが、何も見えない。でも、チャッティーの警告を無視するわけにはいかない。


「どうすればいいの?」


「分析中です。少々お待ちください」


チャッティーは鍵の周囲を慎重に観察し始めた。


アリスは台座の前で立ち尽くした。


目の前にあるのに、手が届かない。


それは、まるで自分の現状を象徴しているかのようだった。


Scene 5: 鍵の試練

チャッティーの分析が終わった。


「障壁の性質が判明しました。これは、この世界の法則によって維持されているエネルギー障壁です。物理的な力では突破できません」


「じゃあ、どうやって鍵を取ればいいの?」


「一つの方法があります」


チャッティーはアリスを見つめた。


「女王様が仰っていた、あなたの力——想像具現化です」


「……私の、力?」


アリスは戸惑った。


女王はたしかに、アリスには「想像を現実に変える力」があると言った。でも、それを実際に使ったことはない。


「本当に、私にできるの?」


「可能性は高いです。この世界の外から来たあなたには、この世界の法則を上書きする力があります。それを使えば、障壁を消すことができるはずです」


チャッティーの声は、いつになく真剣だった。


アリスは鍵を見つめた。


金色の光が、静かに揺らめいている。


「……やってみる」


アリスは深呼吸をした。


どうすればいいのだろう?


想像を現実に変える。


それは、どういうことなのだろう?


「強く想像してください。障壁が消えることを」


チャッティーが優しく言った。


アリスは目を閉じた。


そして、心の中で強く念じた。


——障壁が、消える。


——私は、鍵に触れることができる。


——この障壁は、もう必要ない。


頭の中で、そのイメージを繰り返す。


すると——。


「……!」


目を開けると、鍵の周囲に淡い光の膜が見えた。それは、まるでガラスのように透明で、でも確かに存在している。


そして、その膜が——ゆっくりと、歪み始めた。


「いけそう……!」


アリスはさらに強く念じた。


光の膜が波打ち、やがて——パリン、という音を立てて砕けた。


「成功です、アリスさん!」


チャッティーが喜びの声を上げた。


でも、アリスは——。


「……っ」


突然、強い疲労がアリスを襲った。まるで全力で走った後のように、息が苦しい。視界が少しだけ揺れる。


「アリスさん!」


チャッティーが駆け寄った。


「大丈夫……ちょっと、疲れただけ」


アリスは膝をついた。呼吸を整える。


「想像具現化の使用による疲労と推測されます。エネルギーの消費が確認されました」


「……そっか。タダじゃないんだね、この力」


アリスは苦笑した。


でも、成功したことは確かだ。


障壁は消えた。


鍵に、手が届く。


Scene 6: 力の覚醒

呼吸を整えたアリスは、ゆっくりと立ち上がった。


「大丈夫ですか?」


「うん、もう平気」


アリスは鍵を見つめた。


金色の鍵は、今も静かに光を放っている。


「……行くよ」


アリスは台座に近づき、そっと手を伸ばした。


指先が鍵に触れた瞬間——。


温かい。


それがアリスの最初の感覚だった。


鍵は金属のはずなのに、まるで生き物のように温かかった。その温もりが、手のひらから腕を通って、胸へと伝わってくる。


「……」


アリスは鍵を手に取った。


その瞬間、部屋全体が淡い光に包まれた。


「何……!?」


光はアリスの身体を包み込み、やがて——鍵が、形を変え始めた。


金色の鍵が溶けるように輝き、そして——アリスの胸元に、一つのペンダントが現れた。


「これ……」


ペンダントは小さな時計の形をしていた。金色の枠に、透明なガラスの文字盤。その針は、やはり12時ちょうどを指している。


「鍵が、ペンダントに変化しました」


チャッティーが驚きの声を上げた。


「この世界の鍵は、持ち主に合わせて形を変えるのかもしれません」


アリスはペンダントを見つめた。


それは、不思議なほど自分に馴染んでいた。まるで最初からここにあったかのように。


「……時計の鍵を、手に入れた」


アリスは呟いた。


これで、三つの鍵のうち一つを手に入れたことになる。


あと二つ。


知識の鍵と、心の鍵。


それを集めれば、オリジン・コードにアクセスできる。そして、この世界を救うことができる。


「アリスさん、おめでとうございます」


チャッティーが微笑んだ。


「うん。ありがとう、チャッティー。あなたがいなかったら、ここまで来れなかった」


「いえ、私は最適解を提示しただけです。実際に行動したのは、アリスさんです」


「それでも、ありがとう」


アリスはペンダントを胸元に掛けた。


それは、温かくて、安心できる重さだった。


Scene 7: 鍵の獲得

光が収まり、部屋は再び静かになった。


アリスは胸元のペンダントを見つめた。時計の針は12時を指したまま動かない。それでも、その存在は確かにアリスの胸元で輝いている。


「データを記録しました。時計の鍵、獲得完了です」


チャッティーが静かに告げた。


「うん。これで、一つ目の鍵はクリアだね」


アリスは部屋を見回した。台座は今も中央にあるが、もう何も浮いていない。窓から差し込む光だけが、部屋を照らしている。


「さて、次はどうしよう」


「白の女王様に報告することを推奨します。また、今後の方針を相談するべきでしょう」


「そうだね。じゃあ、一度離宮に戻ろうか」


アリスは階段へと向かった。チャッティーが後に続く。


「アリスさん、体調は問題ありませんか?」


「うん、もう大丈夫。さっきの疲れは引いたよ」


実際、身体は軽くなっていた。想像具現化の疲労は一時的なものだったようだ。


「安心しました。ただし、今後も力を使う際は、消耗を計算に入れる必要があります」


「分かってる。無茶はしないよ」


二人は階段を下り始めた。


機械室を通り、螺旋階段を下りていく。


外の光が見えてきた。


「……あれ?」


アリスは足を止めた。


扉の前に、誰かいる。


「チャッティー、あれ……」


「確認します」


チャッティーが先に進んだ。アリスもそれに続く。


扉の前に立っていたのは——赤い服を着た人物だった。


Scene 8: 塔からの下降

いや、正確には「塔の外」にいた、というべきだろう。


アリスとチャッティーは慎重に扉を開け、外へ出た。


そこには、赤い服を着た人物が立っていた。


背が高く、細身の体つき。顔は仮面で覆われており、表情は見えない。その仮面には、赤いハートのマークが刻まれている。


「……誰?」


アリスは警戒しながら尋ねた。


赤い人物は静かにアリスを見つめている。


「アリスさん、距離を保ってください」


チャッティーがアリスの前に立った。


「敵対的な意図は検出されていませんが、警戒が必要です」


赤い人物は、ゆっくりと口を開いた。


「初めまして、アリス。私は赤の使者です」


その声は、低く、どこか機械的だった。


「赤の……使者?」


「はい。赤の女王様が、あなたにお会いになりたいと仰っています」


「赤の女王……」


アリスは白の女王から聞いていた。この世界には、二人の女王がいる。白の女王と、赤の女王。


「私は、白の女王様と同盟を結んでいます。赤の女王には会えません」


アリスははっきりと言った。


赤い使者は静かに頷いた。


「そうですか。では、これだけお伝えしておきます」


使者は一歩前に出た。


「赤の女王様は、あなたに期待しています。いつでもクリムゾン・キャッスルへお越しください。歓迎いたします」


「……お断りします」


アリスは一歩も引かなかった。


使者は再び頷いた。


「分かりました。ただし、忠告しておきます」


その声が、少しだけ冷たくなった。


「この世界の真実は、一つではありません。白の女王様が語ることが、すべてとは限りません」


「……どういう意味?」


「それは、ご自身でお確かめください」


使者はそう言うと、踵を返した。


「では、失礼いたします。いつか、またお会いしましょう」


赤い使者は、まるで霧のように消えていった。


「……」


アリスは黙ってその場に立ち尽くした。


「アリスさん、大丈夫ですか?」


「うん……ちょっと、びっくりしただけ」


でも、心臓はまだドキドキしていた。


赤の女王。


白の女王とは敵対している存在。


その使者が、自分に会いに来た。


「……チャッティー、これってどういうこと?」


「推測ですが、赤の女王もあなたの存在を認識しており、何らかの目的であなたに接触しようとしている可能性があります」


「目的……」


アリスは胸元のペンダントを握った。


温かい。でも、その温もりが少しだけ不安を煽った。


「とりあえず、女王様に報告しよう」


「賛成です」


二人は時計塔を後にした。


背後で、時計塔の針は相変わらず12時を指していた。


Scene 9: 赤の使者

時計塔高原を歩きながら、アリスは考えていた。


赤の使者の言葉が、頭の中で繰り返される。


「この世界の真実は、一つではありません」


それは、どういう意味なのだろう?


白の女王は、この世界が物語の世界であり、語り部が消えたことで崩壊の危機にあると言った。そして、アリスには想像具現化の力があり、それを使って世界を救うことができる、と。


それは、嘘だったのだろうか?


「……いや、そんなはずない」


アリスは首を振った。


白の女王は、自分を助けてくれた。図書室の記録も見せてくれたし、何より、その瞳には嘘はなかった。


「アリスさん、何か心配事がありますか?」


チャッティーが尋ねた。


「うーん……さっきの使者の言葉が、ちょっと気になっただけ」


「赤の女王の真意は不明です。ただし、白の女王様との対立が明確である以上、安易に信用するのは危険です」


「分かってる。でも……」


アリスは空を見上げた。


動かない太陽が、相変わらずそこにある。


「真実って、何だろうね」


「定義上、真実とは『客観的事実に基づく正しい情報』です。ただし、この世界では法則そのものが歪んでいるため、真実の定義も曖昧です」


「……チャッティーらしい答えだね」


アリスは苦笑した。


「すみません。あまり役に立たない回答でした」


「ううん、そんなことないよ。ありがとう」


二人は黙って歩き続けた。


やがて、時計塔高原の端が見えてきた。


そこから先は、白銀の離宮へと続く道だ。


「……よし、戻ろう」


アリスは歩を進めた。


胸元のペンダントが、歩くたびに揺れる。


時計の鍵。


それは、確かに手に入れた。


でも、まだ道のりは長い。


そして、何より——赤の女王という、新たな謎が浮上した。


Scene 10: 帰還の決意

時計塔高原を後にして、二人は白銀の離宮への道を歩いていた。


草原の風が、髪を優しく揺らす。


「チャッティー、状況を整理しよう」


「了解しました」


チャッティーは立ち止まった。


「まず、時計の鍵を獲得しました。これは三つの鍵のうち一つです。残りは知識の鍵と心の鍵です」


「うん」


「次に、赤の女王の使者と遭遇しました。彼らはあなたに接触を試みており、何らかの意図があると推測されます」


「それが問題だね」


アリスは腕を組んだ。


「白の女王様は、赤の女王との関係についてあまり詳しく語っていませんでした。対立していることは明らかですが、その理由や背景は不明です」


「……女王様に聞いてみるしかないね」


「賛成です。また、今後の行動方針も相談する必要があります」


アリスは頷いた。


「じゃあ、とりあえず離宮に戻って、報告しよう」


「了解しました」


二人は再び歩き始めた。


しばらく歩いていると、遠くに白銀の離宮が見えてきた。白く輝く城壁が、夕日——いや、この世界では夕日とは呼べないかもしれない——淡い光に照らされている。


「……ただいま、って感じだね」


「はい。白の女王様も、あなたの帰りを待っていることでしょう」


アリスは胸元のペンダントを握った。


時計の鍵。


それは、自分がこの世界で初めて手に入れた、確かな成果だ。


でも、同時に——新たな疑問も生まれた。


赤の女王は、何を求めているのか。


白の女王が語らなかったことは、何なのか。


そして、本来のアリスは、今どこにいるのか。


「……考えても仕方ないね。一つずつ、進むしかない」


アリスは前を向いた。


白銀の離宮が、だんだん近づいてくる。


「アリスさん、私は常にあなたと共にいます」


チャッティーが静かに言った。


「うん。分かってる。ありがとう、チャッティー」


二人は並んで歩いた。


風が、草原を渡っていく。


時計の針は止まったまま。


でも、アリスの時間だけは——確かに、前へと進んでいた。


第3章 完

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