第1章 第二話 このゲーム、何だかおかしくない? ウリ坊は立たないよね。でも、その方が楽しいかも。

 画面の中の俺と、目が合った。


「……え?」


 声が、重なる。

 驚いた間も、息を吸う速さも、同じだった。


 俺は、思わず笑った。

 だって、俺がそこにいる。


「……フロンティアリスの中、だよな。凄いな、これ」


 声に出した瞬間、胸の奥が少しだけ高鳴った。

 返事はない。でも、分かっている。

 向こうの俺も、同じ顔をしている。


「……持ってないのに……」


 コントローラーがいらないなんて、便利だな。


 ……けど、床にほっぽっていても仕方がない。

 拾ってちゃんと握りしめた。


 ……いままで以上に、コントローラーを持っていると落ち着いた。


 画面を見る。

 いや、見るというより、そこに立っている。


「じゃあさ……」


 剣を腰の鞘から抜く。

 初めてなはずなのに、初めてじゃない感覚だ。

 思ったより軽くて、少し拍子抜けした。

 普段から、持っていたようだ。


「そうだ、試しに――」


 剣を横に薙ぐ。

 ただ振っただけだ。


「いけ、真空刃!」


 これが俺のスキル技。

 ……のはず。


 ……何も起きない。


「あれ?」


 もう一度、剣を振る。

 少し大きめに。


「……出ないな。あ、そっか」


 ボタンを、押していなかった。

 やっぱりコントローラーは必要なのか?


 パチ。

 ちゃんとボタンを押したけど反応はなにもない。


「押しても出ないのか……」


 一瞬考えて、肩をすくめた。


「もしかして気合、だったりして?」


 背筋を伸ばす。

 深呼吸して、前を見る。


「次は、出来るはず!」


 もう一度、剣を振った。


 風が、集まる。

 そう感じたのが先だった。


 次の瞬間、

 透明な刃が、まっすぐ前へ走っていく。


「――おっ」


 思わず声が出た。


 何もない空間を、透明な刃が切り裂いていく。


「やった! なぜか今まで出なかったんだよね、このスキル」


 俺も、同時にうなずく。


「やっぱ、気合だったな」


「押すだけじゃ、ダメなんだ」


 もう一回。

 今度は、少しだけ強く振る。


 また出た。


「おお……」


 間を空けずにもう一回。


「いけ、真空刃」


 ちゃんと出る。


「連続で出せるのか」


 楽しくなってきた。


 その場でジャンプする。

 思ったより高く跳べて、着地で少しよろけた。


「うわっ」


 笑う。

 向こうの俺も、笑っている。


 剣を振って、跳んで、また振る。

 意味はない。

 でも、それが楽しい。


「んじゃ次は、狩りで試しに行こうかな」


 そう言ったときには、足が自然と前に出ていた。


 道は、緩やかな丘へと続いている。

 着ている革鎧が、やっぱりランドセルみたいにガチャガチャ鳴っていた。


 草の匂いが、少し近づく。


「……ほんとに、ゲームの中だなよな、これ」


 声に出して、もう一度確かめる。

 返事はない。

 でも、分かっている。

 俺は、ひとりじゃない。


 少し歩くと、丘の向こうが見えた。

 草が揺れて、道が細くなる。

 足を進めるたび、鎧が鳴る。

 増々楽しくなって、歩幅が大きくなる。


 そのとき。

 草むらが、がさりと揺れた。


「ん?」


 視線が、同時にそっちへ向く。

 丸い影が、ぴょこんと現れた。


「あ……」


 丸い腹に、短い足。

 見覚えがある。


「うり坊、だよな?」


「ウリ坊だな、でもなんで、二本脚で立っているのか、わからないんだけど……?」


 うり坊は、きょろきょろと周りを見て、こっちに気づいて、首をかしげた。

 次の瞬間。

 ドン、と地面を蹴る。


「来る!」


 考えるより先に、体が動いた。

 剣を振る。


「真空刃!」


 透明な刃が走る。

 うり坊に当たって、体が弾かれた。

 どさりと倒れる。

 起き上がらない。


「……よし、勝ったな」


 胸の奥が、少しだけ温かくなる。


 ……その感覚が、すっと整った。


「……あ」


 体の芯が、軽い。


「やった、レベルがあがった」


 向こうの“俺”も、同じタイミングで息を吐いた気がする。

 鏡がそこにあるみたいで、思わずニコっと笑った。


 コントローラーの、上のボタンでステータス画面を開いてみた。


 ……レベルはあがった。

 けど、元々10だった数値が11になっただけ。

 中には変わってさえいない能力値がある。


「意味があるのかな? これ……」


 ……使わないと上がらないのかな……知能とか……。

 いや、そんなことより戦うのが面白い。

 どんどん狩りがしたかった。


「じゃ、先にいくか」


 そう思った途端、景色が変わった。

 丘の先は、森だった。

 木が密で、奥が見えない。

 さっきまでの風が、ここでは止まって吹いていなかった。


「……暗いな」


 森へ一歩、足を踏み入れようとした、そのとき。

 ざわっ、と音がした。


「ん?」


 ――奥からだ。


「何かが飛び出してくる!」


 人のような叫び声が聞こえた。


「うわああっ!」


 男も女もいる。二人じゃない。

 三人、四人……

 奥から、次々と出て来る。


「逃げろ!」


「ウリ坊だ!」


 ――ウリ坊。

 俺が、倒してやる。


 次々上半身を起こす。

 二本の足で地面を蹴って突っ込んで来た。


「……速っ」


 だけど目で追い、体を動かした。

 軽くボタンを押す。


「真空刃!」


 透明な刃が先頭のウリ坊を吹き飛ばす。

 間を空けずに、もう一発。

 二匹は地面を転がり、動かなくなった。


「……よし、助けた」


 NPCの男は、礼も言わずに走っていった。

 振りかえれば、まただ。

 木の陰から、今度は一人の少女が出てきた。


 深緑のマント。

 長い金髪。

 赤い瞳。

 白い肌の、同じ年くらいの可愛い少女が、こちらを真っ直ぐ見つめて来た。


 彼女は何も言わず、俺のことを見回した。


「……あなた。変わっているわね、ふふ」


 少女は、ふっと口元を緩めた。

 だけどすぐに、その表情は消えた。


「早く逃げないと、やられちゃうわよ」


 そうは言うけど彼女は慌てていない。

 早く私を連れて逃げなさいよと、その瞳が語っているようだった。


「あ、それじゃあ逃げようか。いこう」


 俺は歩き出した。

 でも、何か変に思ってすぐ振り返った。


 ……彼女は一歩も歩いてない。


「え? どうしたの?」


 何があったのか、まるきりわからない。


 でもすぐ彼女は走り出した。

 そして、俺の手を取って。


 いきなり手を取られ、コントローラーが震え、心臓が高鳴った。


 この震えは彼女にわかっちゃうのかな?

 ……突然、そんなことを考えた。


「私はミヅキ。あなたの名前は?」


 また、俺を見た。


「……あ、リクだ。よろしく」


「いいわ。じゃあリク、行くのはこっちよ」


 引かれるまま進んだ。

 道は、すぐに行き止まりだった。


「……あれ? 行き止まりだよ、間違えたの?」


 彼女の手を離した。

 見たけど、岩と木に塞がれて、先はない。


 ミヅキは、一度だけ周囲を見回して、俺を見た。


「……問題ないわ」


 そんなこと言われても。

 どう見ても行き止まりだった。

 それなのに、彼女は動こうとしない。


 背後が騒がしくて、振り返る。

 ウリ坊たちがいた。

 一体や二体じゃない。


 それは、朝の朝礼みたいに並んでいる。


「……なんだよ、これ」


 さらに奥から、

 ゆらっと、大きな影が現れた。


 ぱっと見は、イノシシが立っている姿だ。

 ……でも、どこかおかしい。


 重心が、合っていない。

 立っているのに、今すぐにでも倒れそうで――

 それでも、視線だけが、まっすぐこっちを見ていた。


 また、コントローラーが震えていると思った――

 でも、実際に震えてたのは俺だった。

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もしかして俺って、もつれた状態? ~現実と異世界に別れた場合、上手くリンクできるのかな?~ 🕰️イニシ原 @inishihara

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