第3話

 夏の日差しが目に刺さる。

 あと僕のブロークンハートにも刺さる。


 外になど出たくはなかった。

 こんなボロボロの自分見せたくもない。

 だけど、今目の前の女は僕の手を離してはくれなさそうだ。


「この商店街に入ろっか!」

「ここは……」


 いつも買い物する場所。

 僕が目を合わせないようにいそいそと通り過ぎる場所。


「なんの用があんだ———ッちょっと引っ張んな!」

「国家公認ニートのありがたみが分かるよ~しゅっぱ~つ!」


 どたどたと二人は商店街に入っていく。

 どたどた入んな!目立つだろ!


「すみませ~ん魚屋さ~ん」

「ちょっと呼ばなくていいって」


 無遠慮に小守さんは店主に声をかける。

 これになんの意味があるっていうんだ。金ならないぞ。


「へい、いらっしゃい……あんた」


 僕の目を見て止まる店主。

 そりゃ死んだ魚の目をしたやつが来たら怖いだろ。

 魚屋のくせして魚類を怖がるとなんたることか。


「ほ、ほら……もうかえろ」

「なんだ!国家公認ニートの疋田じゃね~か!」

「!!」


 なんで知ってんだ?!


「これ持ってきな!!いやぁ~立派なニートに出会えてこりゃラッキーだわ!!ガハ

 ハハッ」

「……??」


 何なんだいったい……


「いやぁこんなにお魚もらえてよかったね!!」

「ああ、そうだな……」

「なんだかまだ不安そうだね?じゃあ次はこっち!」


 訳も分からず次の店へと誘導される。

 待て。頼むから待ってくれ!


「こんちは~~八百屋さ~ん」

「は~い、あらあなたは……」


 またしても止まる店主。

 そりゃ枯れてしわしわになったニンジン見たいなやつが来たら怖いだろ。

 八百屋のくせして根菜を怖がるなんて以下同文。


「あ、ど、どうも」


 おばさんが、僕を上から下までじっくりみてくる。

 まさかな。さっきのは偶然に過ぎない。名前もたまに買い物には行くからそれで知ったんだ。


「国家公認ニートの疋田君じゃな~い!!どうぞどうぞ!これ持って行って!!」

「——————」



 

 商店街をあとにし歩道を行く僕ら。

 またしても山のように野菜をもらってしまった。

 ニンジンが多いよ。ニンジンが。


「またまたラッキ~!こんなにもらえてうらやましいなぁこのこの~」

「ははは、」

「ん?どうしたの?」

「いや、やっぱりおかしくないか?そもそも国家公認ニートって何なんだよ」

「え?そのままの意味だよ。国家、つまり政府が認めたニートだよ?」

「認めた?」

「そ!だからこそこんなによくしてくれるんだよみんな」

「よくして……」


 手元に視線を落とす。

 袋いっぱいの食べ物。

 そっか。不思議なことだが、これはこれでいいのか。


「そうだな!うん。これはいいことだ!!」

「おーー!その意気だよ~!!」


 それからも会う人会う人に

 

『よっ!日本一のニート!』

「ありがとよ!」

『ま、まぶし~い!ニート力が強すぎて神々しいぜ!もはや闇を祓ってやがる!!』

「そ、そうか~?」

『ほら見えるあれが国家公認ニートよ~。しゅんくんもあんな大人になろうね~』

「あ、はは……」


 などなど、色々な賛辞をもらった。


「どうでした?国家公認ニートになった感想は」

「ああ、そりゃもちろん最高だよ!

 なんたって何もしなくても周りがほめてくれるし!

 色んなものをくれたりもする!尊敬だって!!

 このまま一生ニートでもいいかもな!!

 このままいっしょう……——————」


 一生ニート?

 一生ってどんな意味だっけ?

 ずっとってことだよな……

 それは確かに素敵なことだ。

 そう、だよな……?


「どうしたの?」


 握った拳が痛い。


「そ」

「そ?」


 噛みしめた唇が痛い。


「そそそそそんなわけあるか!!!」

「ほんとどうしたの?!」

「何もしていないのに褒められる、認められる気色の悪さ!!

 身体は楽をしたがっているのに心が拒否をするこのチグハグ!!

 こんなのが一生続く?そんなの……そんなの———」


 そして僕は走りだした。

 

「ちょっと!疋田君!!」

「ッ——————!!」


 走った。

 ただただ奔った。


 あの日に戻りたくて。


 桜の丘まで。

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