第2話

 天井を見つめるニートな僕。

 涙がこぼれないようにしているわけでも明日に絶望したから天井をみているわけでもない。

 

「ぬぐぐ……背中、いてぇ~」


 丸まって漫画を読んでいたから伸びをしていただけだ。なんのことはない推理だよワトソン君。

 しかし、いかな名探偵でも今のこの状況を打破することは不可能だろう。

 月並みな話だが外にもあまり出たくないのだ。

 一つ釘を刺すが、大学で嫌なことがあったわけじゃない。

 ただ、目標も意味もみつけだせなかった。それだけだ。


「さてっと、続きをよも———ん?」


 腰をかがめて『続・恋のトラブルメーカー!』を手に取ろうとしたときだった。

 一人暮らしの安アパートにチャイムが鳴り響く。

 

「こんな時間になんだ?ってそもそもあまりチャイムすらならないけど」


 宅配でもないし集金でもない。あとは……


「まぁいいか。無視しよ」


 考えるのを諦めて居留守を決め込むことにした。

 しかし


 ピンポ~ン


「……」


 ピンポ~ン


「…………」


 帰ったか?


 ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンッ!!!


「!!———だぁ!もう!うるさいッ!!」


 呼び鈴の猛攻撃にあえなくダウン。

 腹をくくりドアノブに指をかける。


「はいはいどちらさま——————ッ!!」

「久しぶりーーーー!!ひきだくん!!……あれ?」


 ドアが爆破でもされたのかと思うほど元気良き開き、それが僕の顔をクリーンヒット。

 そして窓際まで吹き飛び頭を強打。

 頭部両面に深刻なダメージあり。

 なんでここは内開きなんだ。


「どうしたの疋田ひきだ君?そんなところで寝て。夏風邪ひくよ?」

「い」

「い?」

「いってぇえええな!!なんだよいきなり!!」


 やっと息を吹き返した僕。


「よかった!生きてたんだ!」

「生きてたってなんだよ!殺す気だったのか!じゃあ開けるタイミングとかもわざとじゃ……て、誰だあんた」


 激高していて気づくのが遅れたが、スーツ姿の綺麗なボブヘアの女性がそこには立っていた。土足で。

 

「そこすでに部屋なんだけど」

「え?ああごめんごめん!」


 なんなんだ、この無礼な女は……あれ、この髪の美しさ、僕はどこかで———


「あの……君どこかであったか?」

「え?うそ……忘れちゃったの?」


 忘れた?何を?

 疑問で固まった僕の頬を生暖かいそよ風が撫でる。

 その風に吹かれ女性の髪がなびいている。


「———あ!」

「え?思い出した?」


 そうだ。あの髪だけは忘れない。忘れちゃいけなかった。

 あの丘で静かに微笑んでいたあの子。

 静かに……?


「やったぁーーー!思い出してくれたんだね!!」


 僕の手を握りぴょんぴょん跳ねる彼女。


「え?小守さん、キャラ変した?」

「ん?キャラ変?私変わったかなぁ?」


 別人のそれである。

 物静かで自分としか話さないような人だったのになんなんだこの明るさは……

 断っておくが決して明るいことが悪いわけではない。

 が、ニートで引きこもりの僕にはまぶしすぎるとそれだけの話だ。


「てかなんでここがわかったんだよ」

「う~んとね~……それは、今は秘密かなぁ」


 どうせクラスメイトの誰かに聞いたのだろうといいたいところだが、僕は誰にも教えてなんかない。

 これは軽いホラーだぞ。


「で、小守さんなにか用?」

「用よ!用が大あり!」


 すると彼女はごそごそと何かを取り出す。


「はい!これ!」

「ん?『国家公認NEET』?」

「うん!よかったね!!」


 国家公認のニート?

 頭に?しか浮かばない。


「早速部屋から出て街に繰り出そう!!」

「ちょっと!待てって!!」

「ん?どうしたの?」

「僕はただのニートじゃないんだぞ!引きこもりでもあるんだ!!」

「? 知ってるよ?」


 え?知ってんの?なんで?どこ情報?

 あ。国家だから政府が調べあげてんのか?

 なんだそのスーパーストーカーは。


「まぁまぁいこうよ!きっと楽しいよ~」

「あ!そうだ聞きたいことがあったんだ!」

「え?なに?」


 聞きたいこと——————あの丘であったこと。


「なんであの時……す、好きっていってくれたんだ?」

「あ~あれね……」


 生唾で喉が鳴る。

 呼吸が荒く目が血走る。

 彼女の顔を直視できない。


忘れて!」

「え?!」


 どういう……


「それと」


 部屋を出て先を行こうとする彼女は振り返り言った。


「私嫌いだよ?疋田君」


 彼女の顔は笑っていた。

 あの時の静かな微笑みとは対照的な満面な笑顔。


 告白から3年。


 22歳の夏。

 

 僕は理由もなくフラれた。

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