第4話
丘の上。
街を一望できる眺望。
桜の木がさらに上から見下ろしている。
今は葉桜だけど。
「ぁ———は、あ———はぁ」
息を整えながら考える。
この街は生きている。
皆も僕自身も。
でも僕だけが歳を取らずみんなから置いて行かれている感覚。
老いていきながらも気持ちは不老不死の吸血鬼。
他人との関わり断ってから気づきもしなかった。
時が止まるって淋しいんだな。
「どうしたの?疋田君」
丸まった僕の背に小守さんが声をかける。
「ニートや引きこもりには2種類いるよな?」
「え?」
「経験値を蓄える準備期間のニートと何も考えず努力もしない諦めたニート。
僕は圧倒的後者だった。
でもこんな状況いつか脱せる、なんとかなると思ってた。
だけど、今日のことで思い知ったよ。
何もしていないのにそれを褒めてくれる状況。
あれを心地いいと一瞬認めてしまった自分がいるんだ。
しかし、それを呑めば一生抜け出すことなんて無理なんだ。
あれは毒だ。
未来を殺す毒だ」
この僕の想いを小守さんは黙って聞いている。
まっすぐに見つめる顔からは感情が読み取れない。
「小守さん……一つ我儘をきいてくれるか?」
「……なに?いってみて」
彼女の顔は、これからの僕が起こす愚行を受け止めるための真剣なものへと変わった。
「どうか———僕も働かせてくださいッ!!」
「——————」
地面につく額。
土ってこんな匂いだったんだな。忘れてた。
静まった丘。
葉桜すらも沈黙している。
そりゃそうだ。
この僕を雇ったところでなんの意味があるというのか———でも
「それは本気?」
「……ああ。本気だ」
「なんで?」
「正直言って、小守さんの仕事はよく分からない……
なんで国家公認ニートなんてものを皆が知っていたのかも分からない……
だけど……僕を変える力はあった!!これだけは言える!!」
「……」
「他の迷えるニートにも気づいてほしい。
きっとなんの準備もしていないと後悔する……絶望していても止まっちゃダメなんだよ!」
汗が染みこむ。
土が爪に食い込んで痛い。
「ぷ」
その時、前方からなにやら破裂音がきこえ———
「ぷはははっはははっ!!」
「……は?」
そうです。一人爆笑する小守さんです。
「な、なんだよ!!」
「や、ご、ごめんなさい、ひぃひぃ……」
「こっちは真剣で……」
「は~~……だからだよ疋田君。
こんなに上手くいくなんて思わなくって」
「は、はいぃ?う、上手くってなんだよ上手くって?」
彼女は国家公認ニートのシステムについて話し始めた。
「これはね、ニートを貶したり圧力をかけたりせずに、あえて褒める。
それの違和感から脱却するために自らやる気になってもらうっていう新しい政策だったんだ」
「はぁ……」
「実はまだ試験的なもので、疋田君、君が初めての被験者だったんだよ?
しゃべり方もさ、君が落ち込んでるかなぁって思って明るく変えたんだぁ。どうだったかな?
ふふ、それにしてもさ、こんなに上手くいくなんて思わなかったよ!」
「じゃあ商店街の人たちも」
「そ!」
なんだ……そりゃ。
「まぁこれはドッキリみたいなものかもしれないけど、さっきの言葉、揺らいでない?」
その質問に僕は少し口角が上がった。
「ああ、二言はないさ。
僕はこの仕事、小守さんと一緒に働きたい」
「——————」
真剣に見つめる。
時間でも止まったようにこの丘は静かだ。
「わかりました……疋田君」
「ん?なんだ?」
そういうと彼女はポケットから何かを取り出し、その円錐状から伸びる引き糸
を引いた。
「おめでとう疋田君」
舞い散る紙吹雪と金や銀の紙テープ。
その奥で微笑む小守さん。
それはあの頃の彼女のものだった。
「クラッカー?」
「一応用意しておいて良かった。
嬉しい時はお祝いしなきゃね、それが嫌いな人でも」
「……」
嫌いな人……か。
はっきり言われると堪えるものがあるな。やっぱり。
「ねぇ疋田君」
「なんだよ」
「あの時撮れなかった写真。二人で撮らない?」
あの時———そっか、忘れてた。
卒業式、小守さんだけ写真撮らなかったな。
「ああいいよ。就職祝いにもなるしな」
「ふふ、そうだね」
僕らは肩を並べ街を背にスマホを内カメラで構える。
「あ~でも、これは違うかな」
「え?」
シャッターが押される瞬間、彼女が何かを言った。
そう思った時、頬に柔らかで暖かで紅な感覚が訪れる。
それはとても瑞々しいものだった。
「なななななにするんだよ!」
「これがほんとの就職祝い……かな」
「な、なんだよそれ……嫌いっていったろお前」
「うんそうだよ?でもね」
彼女は紅潮した満面の笑みで
「前を向いてる今の疋田君、昔みたいで大好きだよ」
髪が風に揺れている。
葉桜が舞い、彼女の髪が当時と同じ長さに見えた。
「なんだ……夏の風って、案外涼しいじゃん」
そう感じたのは、きっと
頬に残る彼女の熱量が僕に移って
顔が暑かったから……かな。
国家公認ニートだよ、ひきだ君! 『うつろといしはら』 @uturo3
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます