国家公認ニートだよ、ひきだ君!

『うつろといしはら』

第1話

「嬉しい時はお祝いしなきゃね、それが嫌いな人でも」

 

 誰かがそういった。

 でも誰だったかなんて忘れてしまった。


 ◇


 分かれとは、突如訪れるものである。

 しかし、今日の別れは予定調和。

 運命のいたずら。

 回避不可能なものだった。


「今日でみんなともお別れかぁ」

「寂しくなるね」

「でもよ!またいつでも会えるって!」


 桜が舞う校門でみんな口々に別れの言葉をかけあう。

 

「なぁ!疋田ひきだ!こっちこっち!」


 クラスメイトが僕に声をかける。

 あんまりしんみりするのは好きではないのだが———きっとこれで最後なんだと急いで駆け寄る。


「記念写真撮ろうぜ!」

「ああ!いいぜぇ~

 ……え、なんだよそれ?」

「疋田君知らないの?

 最近また流行ってるんだよ?」


 懐かしいインスタントカメラから鳴るシャッター音。

 そのカラっとした音は青春終了のブザーのようだった。

 

「またみんなデカくなって会おう!」

「お前はホントもっとくってでかくなれよぉ」

「うるせえな!

 疋田はそれ以上食うなよ?それ以上食ったらあべのハルカス超えちまうよ!」


 身長いじりにも三年経てば慣れるものだ。


「はは、超えてやってもいいがお前が可哀そうだからな!

 超えないように通天閣くらいに抑えてやるわ!!」

「おう!そうしとけ!ってなんでやねん!」 

「あれ?そういえば……」

小守こもりさんは?」


 クラスメイトの一人が小守さんがいないことに気づく。

 小守さんとは、学年関係なく『漆黒の乙女』と呼ばれた少女だ。

 

「先帰ったってきいたけど……」

「ええ~~~~!!」


 大ブーイングが起きる。

 やっぱり人気者だな小守さん。


「やっぱり最後だし一緒に撮りたいよなぁ……そうだ」


 何か思いついたらしいクラスメイトが僕の肩を叩いて、


「疋田、お前呼んで来いよ」

「は?」

「そうよ!やっぱり疋田君がいいよね!」


 クラス皆が一斉にうんうんと頷く。


「ちょ、ちょっとまって」

「またねえよ!

 知ってるぜ?無口な小守さんがお前とだけは喋ってたこと!」

「……」


 そう、なぜかあの子は僕とは普通に話してくれていた。

 理由は———分からない。

 

「で、でもどこにいったかなんて」

「い~や嘘だね!お前ならわかる!

 ほら!いったいった!」

「ちょ、ちょっ……!」


 背を押され渋々駆けだす僕。

 確かにクラスメイトがいうように嘘だ、何も知らないというのは。

 思い当たるふしは確かにあった。



「小守さん、やっぱりここだったんだ」

「あ、疋田君。こんにちは」


 桜咲く丘。

 街を一望できる丘の上、彼女は風に髪をなびかせながら立っていた。


「もしかして走ってきたの?どうして?」

「皆待たせてるんだ。写真撮ろうってさ」

「呼びに来てくれたんだ。ありがと」


 そう微笑むと彼女は僕に背をむけ


「でもね、私はいいかな」

「……ほんとにいいのか?最後かもしれないぞ」

「うん。でも君とは……それも今じゃないかな」

「今じゃない?」


 今じゃなかったらいつなのだろうか?

 記念撮影なんてそう何度もあるわけではないと思うが。


「うん……じゃあ帰るね」

「お、おう」

「あ。そうだ疋田君」

「え?」


 彼女は背中を向けたままこちらに呼びかける。

 舞う花びらが先ほどよりも激しくなった気がした。


「私あなたが好きよ……それじゃ」

「——————」


 それだけ言うと彼女は桜の丘を後にした。

 残されたのは、人生初の告白?を受け呆然とする僕だけ。

 舞う花びらが右に左にとなんだか笑われている気さえする。

 

 そんな丘から見える街並みを僕はいつまでもぼーっと見ていた。


 ◇


 あれから2年。


 暑い部屋。

 クーラーも止まり鼓動もすることもなくなった部屋に僕は独り、天井を見上げ立っていた。


 僕は無事ニートになっていた。

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