第4話 ダンジョンはドキドキ♪

 ――冒険者養成校の特別施設、訓練用ダンジョン。

 冒険者によって攻略済みであり、ダンジョンモンスターも弱く、外に出られない。

 典型的な初心者ダンジョンだが、漂ってくる殺伐とした空気は本物だ。


「ここが、ダンジョンか……」

「あれ、意外。アンはもっと怖がると思ってた」

「珍しく同感ね」


 入り口をしっかり見据える私に、ふたりが話しかけてくる。


「なんなら、軽く漏らすかもと思ってパンツ脱がす用意してた」

「珍しく同……いや、同感じゃないからっ!」


 私の泣きそうな目を見て、困った顔をするルミナ。

 特別に許しましょう。

 何故なら、私は百合フラグ職人として事前にここに来ており、本当にちょっとお漏らししたから。


(ふっ、いくらビビりの私とて、二度目ならば恐れるものはなし!)


 足はまだまだガクブルで、気を抜くと漏らしそうだけど、こうやって歩いてる!

 うん、私、成長してる!

 私の状況を察したふたりが、憐れんだ目で見てる気がするけど気にしない!


 (それより、なんとしても私のトラップで、『百合フラグ』を立てなければ!)


 実は、私は事前にここに来てあるトラップを仕掛けている。

 このダンジョンは実習にしか使われず、次の実習は一か月後……実習が行われるまでは、いつでも使える『百合フラグ』を置く場所として最適だったのだ。

 ふたりと連れ出したのは偶然だが、これはチャンス。

 今こそ使うべきだろう。


(今回の百合フラグは王道中の王道! 倒れそうになる私を受け止めてね♡ だよ!)


『――まったく、何、ぼーっとしてるんだか』

『……え?』

『私が支えなかったら、転んでたわよ。少しは感謝なさい』

『べ、別に支えてほしいとか頼んでないから!』


 あの完璧な百合展開を再現するために仕掛けたのは、悪戯用のマジックアイテム。

 踏むと大きくなって、踏んだ人間の体制を崩し、互いが支えあうというわけだ。


(さーて、それじゃあ……!)


 ふたりを誘導するために、トラップのすぐ前に移動する。


「アン、あまり前に出ないで」

「前衛はあたしたちなんだからさ」


 ……計画通り!

 ふたりは私の前……トラップの場所へと行ってくれた。


「え、あっ……!」

「ちょ、ちょっと、エリス!」


 そして、トラップ発動!

 トラップにかかったのはエリスで、まさにあの百合漫画のように、ルミナはエリスを支えようとする!


(やったぁ! これでふたりは……え!?)


 私の作戦は完璧だったが、ひとつ誤算があった。

 それは、あのマジックアイテムがあまりにも強力だったこと。

 ルミナは体勢を崩すどころか、そのまま地面へと倒れていく。


「なっ、あっ……!」


 そんなルミナは支えきれなくなったエリス。

 そしてふたりは、そのまま倒れてしまう……


「あ、あれ?」

「転んだのに、痛くない……?」


 ……私を下敷きにして。


「ふ、ふたりとも、大丈夫……?」


 気づいたら、ふたりを守るために飛び出していた。

 まあ、私がふたりを支えるなんて不可能なので、下敷きになったわけだが。


「馬鹿! 貴女の方が大丈夫なの!?」

「そうだよアン! 怪我は!」

「ぜ、全然大丈夫! 私、こう見えて頑丈だから!」


 そう言いながら、胸を叩く私。

 ……うん、正直、腰が痛い。


「それにしても……やっぱりルミナは優しいね」

「え?」

「いつも喧嘩ばかりしてるのに、ちゃんとエリスを助けようとしたよね」

「ま、まあ、あんなのでも転ばれると目覚めが悪いし」

「エリスも、ルミナにちゃんと感謝しなきゃダメだよ?」

「う、うん……」


 百合フラグは失敗してしまったが、いいものが見られた。

 今夜はぐっすり眠れそう……そんなことを思っていたら、とんでもない光景が飛び込んでくる。


「……ありがと、ルミナ」

「……さっきも言ったでしょう? 目覚めが悪くなるのが嫌なだけよ」


 え、え、ええぇぇぇぇ~っ!

 先に立ち上がったルミナが、エリスに手を差し伸べてる!

 失敗なんてしていなかった!

 ここに立派な百合フラグが立ってるよ!

 動け、私の脳!

 日頃、殆ど使ってないんだから、この光景を完璧に記憶して!

 声も、空気も、ふたりのちょっとははにかんでいる顔も!


「それと、アンもね」

「ありがとう、アン」


 涎を垂らしそうな私の前に差し出される、ふたりの手。


「……うんっ!」


 そんなふたりの手を取り、私は立ち上がる。


(ふたりとも……)


 最高の友だちの温かさを感じながら、私はこう願う。


(これからも、最高の百合を見せてね……!)

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