第5話
今から四年前のこと、とあるSNSにて、一枚の絵が投稿された。投稿したのはれでぃ・冥土と名乗るアカウントだった。何の説明文もなしに投稿されたその絵は水の張ったバスタブに沈んだ髑髏の絵だった。浴室の窓から入る光に、髑髏は照らされていた。れでぃ・冥土はその後、淡々と絵だけを投稿し続けた。退廃的で、死を思わせるモチーフが描かれた絵は次第に支持を集めていく。
ある時かられでぃ・冥土は絵だけではなく、詩歌や小説の投稿を始める。その内容もまた死をテーマにしていて、生と死の水際を漂うような内容だった。れでぃ・冥土のフォロワー数は二年で6000人を超えた。しかし、れでぃ・冥土の投稿は突如途切れて現在に至る。という説明をみちちゃんが話している間、私はなんだか自分の家なのに居心地が悪くて、帰りたいなあと思っていた。なぜなら、れでぃ・冥土の正体は私だからだ。私の中でれでぃ・冥土は死んだのだ。けれど、みちちゃんの中にはれでぃ・冥土が生きていた。
「性別なんてどっちでもいいんだけど、れでぃ・冥土は女性だと思うの。なんとなくだけど。彼女の作品にはいつも死があって、でも、その死は決してネガティブな意味合いだけじゃなかったと思う。彼女にとっての死は新たな始まりを意味していたと思う」みちちゃんはチューハイの缶を見ながら話していた。私はれでぃ・冥土の作品に込めた意味なんて考えたことがなかったので、少し恥ずかしい。そんこと知る由もないみちちゃんは話を続ける。
「私ね、幼い頃からやってたピアノを、中二で諦めたの。ピアノを弾くには手が小さかったのね。ちっさい頃はピアニストになるって信じてて、それだけを目標に頑張って来たんだけど、諦めちゃったら私には何も残ってなかった。何もない私には不安しかなくて、でも、その不安を話せる気の置ける友達もいなかった。とはいえ、いじめられてたわけでもなかったから、ホントに空気よね。いてもいなくても誰も気にしない存在。私は精一杯、一人でも平気って言い聞かせてたんだけど、毎日夜が来ると猛烈にむなしくなってこのまま永遠に夜だったらいいのにと思ってた。そんな時にれでぃ・冥土を知ったの。さっき彼女の描く死はネガティブじゃないって言ったでしょ。あなたのこの扉の絵もそうだけど、彼女の絵にも光があった。廃墟を描いた絵でもそこに光が射していて新しい生命の予感があった。その当時彼女の絵を引用して詩や物語を書く人がたくさんいてね、私も彼女の絵で詩を書いたの。自分の不安な気持ちを書いたへたくそな詩。そしたら、れでぃ・冥土からすぐにいいねが来て、それだけで私は自分の生を肯定された気がしたの。私は寝れない夜にはれでぃ・冥土の絵に詩を書くようになった。いつも彼女はその詩にいいねをしてくれた。そのうち詩を書くこと自体を楽しめるようになっていってクラスでひとりぼっちでも、どこの誰とも知らないれでぃ・冥土のおかげで頑張れる気がしたのよ」みちちゃんはそこまで言うと黙った。私も黙っていた。というより、れでぃ・冥土が自分の知らないところで人の役に立っていたことに驚いて、何も言えなかった。
「ごめん、いきなりこんな話されても困るよね。でも、あなたの絵はどうしてもれでぃ・冥土を思い出すから」と彼女は困ったように笑った。私は何か言うべきだったけれど、何も言えなかった。私がれでぃ・冥土を始めた理由は一つ。それは死ぬためだった。当時の私には光なんてなくて、どす黒い闇しか見えていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます