第1話
れでぃ・冥土の投稿が途絶えてから約二年が経った。私はようやく人間になろうとしていた。これから始まる大学生活を充実したものにするためには、越えなくてはならないハードルが三つある。私は床にぶちまけたゲロを掃除しながら、両腕にあるぼこぼことしたリスカ痕を隠すべきか、隠さずに行くかを考えていた。予報では四月初旬にしては暑くなるらしかった。髪の毛を引っこ抜いて作ってしまった十円ハゲは帽子で隠そう。朝から吐いたくせに、体調は良かった。
最近は処方通りに薬を飲んでいるし、リスカもレグカもしていない。吐くまで酒を飲む癖はまだ治らないけれど、それだって頻度が減ってきている気がする。
私は壁に飾ってあるれでぃ・冥土の最後の作品を見上げる。晴れ渡る草原に浮かんだ扉の絵。この未発表作を最後にれでぃ・冥土は姿を消した。私にはこの作品の続きがある気がしてならない。しかし、れでぃ・冥土はもう絵筆をとることはない。そう願う。
鏡台のライトをつける。青白い自分の顔がそこにはあって、笑顔を作ると、鏡の中も死にそうな顔で笑う。今度は両手で口を引っ張って無理やり笑顔にしてみる。目だけがずっと笑っていない。生き返れと思いながらメイクをする。下地が済むと顔色が良くなってかえって眼の光がないことが浮き彫りになった。まあ、いいさ。これからこれからと思った。いやだめだろ。目が死んでちゃ。
私は何とかして目を生き返らせようとした。鏡に向かって怒ってみたり、笑ってみたり、困って、泣いて、悲しんで、思いつく限りの表情を試して目を復活させようとした。鏡とにらめっこすること約一時間。大学最初の登校日、遅刻が確定した。
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