第4話 覚子が笑った日2~覚子と三宝~
トイが覚子と友達になった日、そして世眠が覚子と仲直りをした日、三宝は学校を休んでいた。
その翌日、トイと世眠は欠席していたので、仲良しの
(私が一番最初に友達になりたかったのに!!)
転校生と幼馴染の二人に先を越されて内心焦ったが、チャンスは誰にでもやって来る。
その日、折よく雨が降ったのは、果たして偶然だったのか……昼過ぎ急に天気が崩れて、下校時刻までには、ざあざあ降りになった。
ほとんどの児童は教室に置き傘があって、ない児童は友達と相合傘で帰った。
けれど、覚子は自分から話し掛けられる友達がいなかった。
「私は、まだ完全な妖怪になってないから雨に濡れないかもしれない。でも、もしずぶ濡れになったら、どうしよう。きっと五香松先生が心配する」
覚子は、教室に残って窓際の自分の席から雨空を見上げていた。
「職員会議が終わるまで待った方がいいよね」
滝のような雨を見て、そう決めた。
その時、誰かが、ガラッとドアを開けた音が教室に響いて、覚子は「きゃああっ!」と小さく悲鳴を上げた。
三宝からしてみれば、控えめに開けた方である。
しかし、覚子の両肩は、ビクッと跳ねた。
(あっ、この子、お母さんが、
覚子は青ざめた。
世眠が三宝を怒らせて、その都度噛み付かれているのを何度か目撃していたからだ。
覚子は、勢いよく立ち上がった。
教室を飛び出そうと決めた時、三宝の切なる叫びに足が止まった。
「待って!!あなた、人間だったんでしょ?」
こんな間抜けな質問を、三宝は、かつてした事がない。
最悪な切り出しだった。
(あああっ、私のバカバカ!)
覚子の怯える目を視界に入れて、三宝は心底悔いた。
(どうして知ってるの?皆に言うつもり?)
覚子の秘密を知るのは、トイだけだと思っていた。
先生からも、そう言われたのだ。
「安心して、誰にも言わないから。それに、この秘密は、私と世眠しか知らない」
三宝は、無言の表情から傷心を読み取って、慌てて言い足した。
しかし、警戒心を解こうと放った言葉は、逆効果だった。
(え、誰に聞いたの?)
覚子は、余計に硬直した。それを見て、三宝は焦った。
(どうしよう!こういう時は、知った経緯を説明して、次郎さんから聞いたって言えば、ううん、ダメ!告げ口みたいになるかも。そんな事したら、心を許せる人が減っちゃう。次郎さんを慕ってるみたいだし。だったら、ええっと、どうしよう!)
焦れば焦るほど、気の利いたセリフが浮かばない。
ビクビクしているクラスメイトを見つめて、三宝は、心から思った。
(私、この子の笑う顔が見たい!)
「私も、友達になりたいの!」
三宝は、願いを込めて微笑んだ。
すると、覚子の強張っていた表情が、ほんの少し和らいだ。
「あなたの名前、カ・ク・コよね?呼びづらいから、カッコでいい?」
覚子は、返事をしなかった。
(別に、呼び方なんか何でもいいよ。覚子なんて、ほんとの名前じゃないんだから)
ふいと目を逸らされたが、三宝は、めげなかった。
「私、お兄さまと、お姉さまがいるの。あ、弟もいるのよ」
「………」
「でねっ!大きくなったら下界に住むの!」
「えっ!?」
覚子が声を発して振り向いたので、三宝は、歓喜して話を続けた。
(やった!こっちを見てくれた!)
「カッコ、下界の記憶まだ残ってるんでしょ?私、お母さまから聞いて知ってるの。新任の先生が、ヘマしたんでしょ?」
覚子は、思わず苦笑した。
(ヘマって、すごく失礼な言い方。まあ、事実なんだけど)
「………家族以外の記憶なら、ほんの少し………」
戸惑いながらも小さいながらも、覚子の声は確かに出た。
三宝は、初めて成立した会話に大喜びした。
「それ教えてよ。私は、浮雲のこと教えてあげる。浮雲で生きてくでしょ?」
「生きる!?」
覚子は心底驚いて、三宝を見つめた。
(私は死んだのに、生きるってどういう意味?)
覚子の疑問は、顔に出ていた。
それに答えるべく、三宝が柔らかな笑みを深めた。
「カッコは、私たちの仲間よ。これからも、ずっと一緒に生きてくの。だから、勉強を頑張らないと。世眠みたいな放蕩息子になっちゃう」
世眠と聞いて、覚子は赤面した。告白の言葉を思い出して急に恥ずかしくなった。
それで咄嗟に俯いたが、三宝は、その表情を怒りと勘違いして慌てて話題を変えた。
「老舗焼鳥の次郎さんは知ってるでしょ?」
覚子が、こくりと頷いたのを見て、三宝は、ほっとした。
そして、できるだけ声を潜めて話した。
「あのね、次郎さんの跡継ぎになりたくて、勉強しないの」
「跡継ぎ!?」
顔にこそ出なかったが、びっくりして覚子は声が裏返った。
三宝は、嬉しくてたまらなかった。世眠のおかげで会話が続いている。
「二代目になりたいっていうの」
「二代目っ!?」
覚子は目を見開いて、ぽかんとした。今度こそ、驚きが顔に出たのだ。
三宝は小躍りしたい気分だったが、必死に我慢した。
今、銀目に変わって犬耳が飛び出たら、きっと怖がらせてしまう。
「本当は、毎回テストで百点とれるくらい頭は良いのよ」
「いっつも三点なのに!?」
覚子は、怖いのも忘れて尋ねた。
「うん!一年の頃から、ずっと三点をキープ!でも、クラスの皆、知ってるのよ。バカなフリして遊んでるだけ。跡目になりたくないの。次郎さんの跡を継ぐって、三歳の時に決めたんですって!」
「三歳の時に決めたの?早いね」
覚子は、すっかり話に引き込まれた。
「ほんと、はた迷惑な話よね。勝手に師匠って呼んでるのよ」
三宝が肩をすくめてみせると、覚子は思わず身を乗り出して聞いた。
「ご両親は知ってるの?次郎さんも?」
三宝は、思わずクスッと笑って答えた。
「知らないのは、先生たちだけ。だから、
聞き終えた途端、覚子は吹き出した。おかしくて笑いが止まらなかった。
つられて三宝も笑った。
五香松先生は、二人の笑い声を廊下で聞きながら胸を撫で下ろした。
「傘は、いらないわね」
微笑みながら、職員室に引き返した。
職員会議は、とっくに終わっていたが、二人とも気付かなかった。
目尻に涙が溜まるほど笑った後で、三宝が片手を伸ばした。
「ねえ、相合傘で帰らない?」
「うん」
覚子も力強く頷いて、右手を伸ばした。
雨は小降りになっていたが、二人は肩を寄せ合って傘に入った。
三宝の犬耳は元気に跳ねていたし瞳は銀色に変わっていたが、覚子は、もう怖くなかった。
新しくできた友達と、笑いあって帰った。
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