第2話 Hunger Shooter/02

 路地の出口、傘を開いたシルエットがいた。

 繁華街の灯りがくっきり、彼女を浮かび上がらせる。

「おいおい、つれないな。まあ、君に愛想は期待していない」

 女性は傲岸不遜に胸を張る。

「行こう。終わったのだろう?」


 街灯の光が窓から定期的に差し込む。

 がたんがたんとどうしようもなく揺れる。

 車は、首都高速を飛ばしていた。

「どうだ、たまには夕食でも」

 反応しない。彼女も特段気にしない。

「なんだそれは。会話は即答しろ、黙るな」

「……お前が黙れ」

 一瞬顔がこちらを向く。

「そうだそれだ。だが、お前が思っている程、周囲はお前を一人にしない」

 女性は小首を傾げて、何か小さく呟いた。

 そして今度は聞こえる声でそうだ、と呟く。

「それに、私とはともかく星埜(ほしの)が喜ぶだろう」

 からかうような響きが混じる。

「……なぜあいつの名前が」

 呼吸か。口が痺れるように、言葉が出ない。

「私が彼女に、お前のために準備させてるからだよ」

 『私のため』に?

 言葉としては判る。

 風を切る音が耳に届く。

 古臭い伸び切って歪んだステレオの音が気になる。

「ん?どうした。確かに私はいい女だが、珍しくもあるまい」

「本当にそう思っているのか」

 破顔。

「何となくお前が判って来た気がするな」

 憚らず少女のように笑う彼女が、しかし不釣り合いに美しくも見える。


  判る、のか?


 彼女の呟きに、両手を眺める。

 忙しく光が飛び交う中、濃い闇から僅かに浮かんだ掌を。

「わざとか?」

 問い。

 今度は冷たい視線だけを向けて来て、無言。

「……ステレオだ」

「ああ」

 女はボリュームを回しきり、停止させる。

「実験だよ。どうだった?」

「どうもこうもない、音が歪んでいて気分は良くない」

 ふぅん、と中程度の感情が乗った鼻から抜ける声。

「音というよりは直接空気が耳朶を叩くのが快感なのかもな、お前の場合」

 どうだろうか。

 彼は運転席に座る彼女をちらりと一瞥して反芻する。

 記憶を。自分の行為の記憶を。

「……さあな」


 趣味は、仕事と両立されるべきだ――彼は、今の自分に少しの満足感を得ているような気がしている。


「そうか」

 女性はそれ以上何も言わなかった。

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