第8話 思わず、ぷー

 ーーぷーぷっぷー! ぷーぷっぷー!


 まるで小さなお城のような壮麗な邸宅の中を、場違いでおマヌケな音が響き渡る。

 何かって? 俺がおもちゃのラッパを吹きながら邸の中を走り回っているんだ。

 小さな身体で、トテトテと走りながらラッパを吹く。

 親父がそれを見て、やっぱりこいつはバカだと、頭を抱えていたなんて俺は知らない。


ちゅうごー集合! ちゅうごぉーッ!」


 ーーぷーぷっぷー! ぷーぷっぷー!


 何事かと旦那様と奥様、そしてブレイズ様とお嬢も顔を出した。


「だんなちゃまの、ちょちゃい書斎に、ちゅうごー!」


 後で親父に言われた。何もラッパを吹く必要はなかっただろうと。だって俺がやりたかったのだもの。へへへん。

 お嬢の家族と親父が集まった旦那様の書斎。すぐそこに、お嬢がいる。

 あの時怒りと悲しみに打ちひしがれ、魔力を制御できずに最上級の爆裂魔法をぶちかましたお嬢が。

 まだ小さくて天使のようなお嬢が、可愛らしいふんわりとしたワンピースを着て、ソファーにちょこんと座っている。

 え、ここに精霊がいるぞ? いや、天使か?


 ――ぷ


 思わず持っていたラッパを吹いてしまった。

 ああ、天使がここにいるぞ! と思ったら体が勝手に動いてピョンとソファーに飛び乗り、お嬢をギュッと抱きしめていた。ちびっ子なのに。

 短い腕で抱きしめたお嬢は、柔らかくてフワフワでいい香りがした。

 感動の再会で、思わずラッパも吹いてしまうってもんだ。ああ、可愛いが過ぎるぜ!


 ――ぷぷ


「もう、なかちぇ泣かせない。はなちゃ離さない。こんどはじぇったい絶対にまもるから、おれのヨメになって」

「ふぇ……!?」

「コラ! ベル! 何してんだ!?」


 いきなりお嬢に抱きついたものだから親父にベリッと剥がされ、げんこつをポコンと落とされた。


 ――ぷー


「いってーって!」

「プープーうるさいぞ! お嬢様に対して何してんだ! バカ息子が!」


 だって、感動しちゃったのだもの仕方ないじゃないか。お嬢が激可愛いちびっ子令嬢になって、目の前にいるんだぞ。天使が生きているんだ。

 決めた! 俺、今回はもう遠慮しねー。お嬢をヨメにする! 決意の拳を掲げる。ラッパを吹きながら。


 ――ぷぷー


「バカなことを考えてないで、さっさと話を進めないか!」


 とうとうおもちゃのラッパを取り上げられちゃった。くっそー、お気に入りだったのに。


「わかったって。ちかた仕方ねーな」


 さて、いきなり本題だ。こんなことは、遠まわしに言っても仕方がない。

 よいしょとソファーの上に立った。ちゃんと靴は脱いでるぜ。俺はお利口さんな、ちびっ子だからな。


「おれのことを、ってるひとは、てをあげてー!」


 はーい! と自分で張り切って手を上げる。

 執務室の応接セットに座っているお嬢の家族全員が、不思議そうに顔を見合わせながら静かに手を上げた。


「ベル、何を言っているんだ?」

「そうよ、ベルのことはみんな知っているわよ」


 旦那様と奥様が、訳が分からずそう言った。

 違うんだな、俺は数日前に親父に買われてこの邸に来たばかりだ。

 ついさっきまで寝込んでいたから、親父の部屋を出たのは今が初めてで、旦那様たちにはまだ挨拶もしていない。だから知っているはずがないんだ。


「おれ、さっきまで、をうしなってたんだ。まだこのおやしきに、きたばっかなんだけろ」


 俺がそう言うと、全員がキョトンとした顔をしていた。まだ意味が分からないらしい。


「だが、ベル。私たちは知っている」

「ええ、知っているわ」


 そこで俺が説明した。お嬢と俺が17歳の時の建国祭のパーティーで、俺が時を戻した。

 加減ができなくて、まだ奴隷だったちびっ子に戻ってしまった俺は、親父に買われてこの邸に来たのだと。

 皆に自分が体験したことがないはずの、未来の記憶がないかとストレートに聞いた。


「ふぇ……ふぇーん! えぇーん!」


 ああ、お嬢が泣き出してしまった。


「ネネ!」

「辛いことを思い出しちゃったのね」

「ベル! なんてことをするんだ!」


 あれ? 俺がブレイズ様に責められちゃった。いや、なんでだよ。

 多分自分の中にあるこの記憶は何だろう? くらいには思っていただろう。

 けどその辛い記憶が本当にあったことなのだと認識したら、その時の気持ちもリアルに蘇ってしまったのだろう。


「おじょう、おもいだちちゃった?」

「ふぇぇーん! べるー! ごめんなちゃいー! あたち、ゆるちぇ許せなかったのよー! ええーん!」


 まず俺にごめんなさいなんて言う。自分が辛かったことより先に謝ってくれる。なんて優しいんだよ。

 いやいや、バリ可愛いぞぅ。マジ、天使だ。久しぶりにまだ舌足らずなちびっ子のお嬢を見ると、思わず頬が緩んでしまう。うへへ~。


「ベル! にやけるんじゃない!」


 あ、またブレイズ様に叱られた。ブレイズ様はシスコンだからな。

 お嬢の兄のブレイズ・ホルハティも、今はまだ8歳くらいだ。

 本当なら、今の歳だとお嬢に近寄れないはずなんだ。時が戻っても相変わらずシスコンだけど。いや、シスコンに拍車が掛かっている。

 旦那様に似た白銀の髪がこの頃はまだ伸ばしきれていなくて、ショートボブの長めの前髪がサラリと頬に落ちる。

 この兄は家族の誰よりも強い魔力を持っている。それがバーガンディ色の瞳だけでなく、赤っぽいシルバーがメッシュのように入っている前髪に現れている。





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このお話の、ぷーとラッパを吹く。実はこれが最初に思いついて、ベルができました。ちびっ子にラッパを吹かせたいと。

え、そこ? みたいな(^◇^;)

それと、ザマァを書きたかったことを考えて、この新作ができました。

だって令嬢ものを書いてみたかったのです。

ザマァだけでも書いたら結構得心したのですけど。

ここからは、いつものちびっ子大活躍(?)なお話になります。令嬢ものみたいに、ドロドロにはなりません(^◇^;)

ベルとネネちゃんをよろしくお願いいたします‪(*ᴗ͈ˬᴗ͈)ꕤ*.゚

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