第7話 お嬢の気持ち

 お嬢には届かないと分かっていても、俺は抱きしめながら願った。

 俺が一番そばでお嬢を見てきた。なのに俺はなにもできなかった。こんな思いをさせてごめん。守れなくてごめん。

 そんな俺の気持ちも溢れ出し、お嬢の炎を抑えようとしている俺の魔力と混じる。


「お嬢……! 離れていてごめん! 今度こそ! 今度こそ俺にお嬢の全部を守らせてくれ!」


 そのまま俺の全魔力を解放した。俺の真上に大きな魔法陣を幾つも展開させる。

 ドラゴンの膨大な魔力量がないと発動できない大魔法だ。魔法に長けたエルフだって、できる者はいないかも知れない。そんな大魔法を俺は発動する。

 崩れ落ちた天井の瓦礫の向こう側に、元凶の王子が尻餅をつき悲壮な表情で涙を流しているのが目に入った。

 もう二度と、お前なんかには渡さない。誰にも渡さない。俺がこの手で愛でて大事に守るんだ。

 それが俺の最後の記憶だった。



「はぁ~……」


 一部始終を聞いて、親父が大きく息を吐いた。そして俺の頭にポコンとげんこつを落とした。『ポコン』だから全然本気ではない。

 実際に親父はなんとも言い表せない表情をしていた。

 親父だって、悔しいんだ。お嬢の気持ちを思うと、いたたまれないんだ。

 それでも病み上がりのちびっ子に、普通手を上げるか? それはないだろう?


「いってーな! なにちゅるんだ!」

「お前が付いていながら、何をしていたんだ!」

ょーがねーないじゃねーないか! おれは、じゅうちゃ従者なんだから!」

「だからと言ってだな!」

「おれだって! おれだって、くやちい悔しいんだッ!」


 王城で開かれた国王主催の祝賀パーティーだ。高位貴族ばかりが招かれている。従者がそこに入れただけでも、めっけもんなんだ。

 だから俺はお嬢とは離れて、出入り口近くの待機場で控えていた。それが仇になったんだ。

 すぐに駆け付けられなかった。お嬢があそこまでキレるまでに、俺がそばにいたら?


「けろ、おじょうのきもちも、わかるだろ?」

「ああ。あのバカ王子が。うちのお嬢様に何をしてくれとるんだ」


 な、親父だってバカ王子って思うんだ。

 でも、その場にいなかった親父に記憶があるということは、他にも記憶を持っている者がいるかも知れない。


「おやじ、ほかには? だんなちゃまとか、おぼえてねーのか?」

「わからん、まだ話して良いのか判断できなかったから確認していない。ただ、使用人は皆覚えてないぞ」


 そうか。どうしてそうなのか分からないのだけど、もしかしたら俺が思った人だけの可能性がある。


「おれの、せいかな」

「なんだと?」

「おやじには、わかっていてほちいって、おもったんだ」

「なるほど、お前の気持ち次第ってことか」

ちょうだ」


 そうなると、旦那様と奥様、そしてブレイズ様は覚えている可能性が高い。俺の手を握っていたし。

 だけど、問題はお嬢だ。あんなことは覚えてない方が良いんだ。

 だけどな……俺はベッドの上で、短い腕を組んで考える。ふむふむと考えていると、また頭にポコンとげんこつを落とされた。


「だから、いてーって!」

「お前が考えても仕方ないだろうが」

「だからって、げんこちゅはねーだろ!」

「チビのくせに、そのポーズがムカつくんだ」


 なんて理不尽な理由だよ。仕方ないだろう? だって中身はちびっ子じゃないのだから。


かたねーな」

「どうすんだ?」

「かくにんちゅるちか、ねーだろう?」


 そうと決まったら早速確認だ。


「おやじ、おれふくねーじょないぞ

「ああ、持ってきてやる」


 てか、腹も減ったし……いや、そんなことより、とっても重大なことがある。


「おやじ、ちょれよりたいへんだじょ」

「なんだ? まだあるのか?」

「いや、おれがピンチなんだ」


 俺の小さな膀胱が決壊寸前だったんだ。激ヤバだ。思わずモジモジしてしまう。


「お漏らしすんなよ」

「うっせー」


 親父に連れてってもらい、事なきを得た俺は取り敢えず食事をもらった。腹が減ってはなんとやらだ。


「何日も意識がなかったんだ。まだまともな物は食えねーぞ」

「ええー……」


 え? そうなの? そんなに酷かった?


「全身酷い怪我で、腕と足が骨折していたから医者にも診せた。だが、お前は竜人だろう。人とは違うから、よく分からんと言われたんだ。普通の人なら、とうに命はないとな」


 まあ、そりゃそうだろう。ドラゴンは人より生命力が強いからな。なにしろこの世界では最強種だ。


「俺は回復魔法は使えねーからな」


 それでも親父は、薬湯を飲ませて看病してくれたらしい。本当は優しいくせに、いつもぶっきら棒なのは照れ隠しか? いい歳をして今更ツンデレなんて、どこにも需要がないぞ。素直になろうぜ。


「何か余計なことを考えているだろう? またげんこつを落とされたいか?」

「いや、えんりょちとく」


 大人しく食べよう。じゃがいものポタージュスープに、パンを浸したものを食べた。温かくて、優しい味が身体に染みるぜ。


「ふぅ~、いきかえった」

「なら、さっさとしろ」

「わかってるって」


 ヨイショとベッドから降りる。

 親父に服を着替えさせてもらう。ちびっ子なのに一丁前に従者みたいな服を着せられ、首にはネクタイ代わりのふんわりとしたおリボン付きだ。膝丈のズボンを履いて、まだ細い足には黒のハイソックス。

 奴隷だったからまだガリガリだけど、これからムッチムチの超可愛い幼児体形になってやるさ。

 そうだなぁ、どうしよっかなぁ。ま、とりま集まってもらおうか。





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お読みいただきありがとうございます!

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やっと、ちびっ子ベルくんが少し登場しました。

最初の方は、お嬢を想うベルの気持ちが溢れます。このシーンは最初の頃に思いつきました。

次に投稿予定のお話を最初に思いついて、ザマァできないかな?と考えていた時です。

ベルのやるせない辛い思いが伝わると良いのですが。

今夜も、もしかしたらもう1話投稿するかも知れません。お読みいただけると嬉しいです。

よろしくお願いいたします!

目指せ10万文字(ノ*>∀<)ノ♡

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