第6話 キレちゃっている

 王はなんとか収めようとしていたが、王妃はそうじゃない。


「ネーネルヴァ嬢! あなたが至らないから、こんなことになったのよ!」

「お前は黙っていなさい!」

「ですが陛下!」


 その場にいる貴族たちはドン引きだ。自分たちの目の前で何が起こっているのか、頭が追いつかないのだろう。

 建国記念日を祝うパーティーのこの場で、まさかこんなことが起こるなんて、一体誰が想像できただろうか。

 旦那様が辺りを見回している。誰かを探すように顔を動かし俺を見つけると、早く来いと手招きをしながら声を張り上げる。


「ベル!」


 旦那様に呼ばれ、弾かれたように俺は走り出す。人混みの中をかき分け、一刻も早くお嬢のそばに行こうと急ぐ。

 旦那様が真っ青な顔で、俺を見ている。目が早く来いと言っている。俺は従者だからと、離れていたのが仇になってしまった。


「ちょ、ちょっと通してください!」


 お嬢のそばへ行こうとするのだけど、集まっている貴族たちに阻まれてなかなか進めない。貴族たちをかき分け、長い黒髪を振り乱しながらお嬢を目指す。


「ベル! 早く来なさい!」

「旦那様! お嬢!」


 こんな大勢の貴族が集まっている中、しかも建国を祝うパーティーで一体何を考えているんだ。俺のお嬢に何をしてくれているんだよ。心の中は怒りで煮えくり返り、それを押さえるのに必死だった。それでも俺はお嬢の下へ急ぐ。

 まだ離れている俺でも熱気を感じる。ヤバイ! これは完全にキレている。


「ネネ! だめだ!」


 旦那様が叫んでいる。これはただごとではないとやっと気付いた貴族たちは、逃げようと大広間の外へと人が流れ出した。その人波に押されて、俺は余計に進めなくなっている。


「ネーネルヴァ嬢! どうか落ち着いてくれ!」

「なんなの! ここで炎を出すなんて、何を考えているの!」

「だからお前は黙りなさい!」


 王と王妃もパニックだ。なんとかこの場を収めようとして声を上げる王と、それでもお嬢を非難している王妃が対照的だ。この王妃が強く望んで成った婚約だというのに。

 ようやく旦那様のそばに到着した頃には、辺りに炎が舞っていた。それも蒼い炎が。


「ベル! ネネを止めてくれ!」

「旦那様、お嬢はもう聞こえてないぞ!」


 お嬢の眼がどこを見ているのか分からない。視点が合っていない。余程、王子の言ったことが許せなかったのだろう。

 お嬢がキレるのも無理はない。5歳の時に王妃のごり押しで無理矢理婚約させられてから12年間、お嬢は黙って第2王子の尻ぬぐいをしてきた。ありがとうの一言も言ってもらえないどころか、出しゃばったまねをするな! と罵倒されたのに、ずっと我慢して我慢して、耐えてきたんだ。

 あまりの理不尽さに枕に穴が開くくらい殴ってしまい、メイド長に平謝りしていた時もある。

 鬱憤を晴らそうと何時間も走り込んで、ぶっ倒れていた時だってある。いやいや、体育会系かよ! て思わずツッコんだけど、俺も付き合って一緒に走ったさ。

 そうやって、お嬢は必死で我慢してきたのにこの仕打ちだ。

 その場に起こったことに驚いて慌てふためき、なんとかその場から離れようとしている王子と令嬢。だが、風圧と炎で身動きができなくなっている。


「ベル! 父上! どうしてこんなことに!?」

「ブレイズ!」

「ブレイズ様!」

「ベル! お前が付いていながら、どうしてこうなった!?」

「すんません! 離れてました!」


 お嬢の兄上、ブレイズ・ホルハティだ。この王城に務める魔術師団だ。この兄も炎を操る。お嬢より兄の方が強い魔力を持っている。だからこそお嬢の魔力を感じ取り、駆けつけることができたのだろう。

 だけど、もう遅い。俺は覚悟を決めた。

 蒼い炎の中に浮かび上がるように、お嬢の白銀の髪が舞う。

 荒れ狂う炎を抜け、感情が抜け落ちたような表情のお嬢を後ろからギュッと抱きしめる。心を切り裂かれ、こんなに傷ついて……ずっと12年間も我慢して仕えてきたというのに。

 

「お嬢! 落ち着け! あんな奴の言ったことなんか、気にしなくていい!」


 すぐ耳元で必死に大声で言っているのに、お嬢には届かない。お嬢を腕の中に抱きしめながら、後ろにいるブレイズ様に手を伸ばす。


「旦那様! 奥様! ブレイズ様の手を取ってください! ブレイズ様は俺の手を!」

「ベル! どうするんだ!?」

「もうお嬢の魔力の暴走を止められません!」

「だから、どうするんだ!」

「……戻しますッ!」


 最後の手段なんだ。どうなるのか俺にも分からない。その上、お嬢の魔力も抑えないといけない。一か八かだ。


「ベル! 任せたぞ!」

「おーッ!!」


 ブレイズ様が俺の手を強く握る。よしッ!

 俺は自分の魔力を解放する。頭に2本の角、背中には蝙蝠のような大きな翼、鈍く光る黒い鱗の尻尾が現れる。黒龍である俺の全魔力を持っていけ。

 お嬢を取り巻いていた炎を抑えようと、俺の魔力の黒い風が追いかける。それでも炎が暴れ出す。


「マジかよ……ッ!」


 お嬢を抱きしめた片腕と、握りしめたハルト様の手に力が入る。

 俺だって使ったことがない魔法なんだ。どうなるのかなんて誰にも分からない。だけど、お嬢。俺にチャンスをくれないか? そう心の中で願う。





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遅い時間ですが、投稿したくなっちゃったのです(^◇^;)

早くちびっ子を登場させたくて!

もうすぐ過去の振り返りは終わります。

ベルくんがしっかり登場します!

よろしくお願いします‪(*ᴗ͈ˬᴗ͈)ꕤ*.゚

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