Episode 2. 「朝の光と青い肌」

「新しいレベル」


……暗い。


本当に、何も見えない。


――終わった?

――やっと、目が覚めるの?


耳元で、かすかな音がした。


ピッ、ピッ……

規則的で、意味のない音。


次第に、その音は言葉に変わっていく。


「……お目覚めでございますか、御主人様」


私は、ゆっくりと目を開いた。


まぶしい。


視界いっぱいに、柔らかい光が広がった。

天井は丸く、宝石のようなものが散りばめられている。


――ベッド?


私は、柔らかく沈む円形の寝台に横たわっていた。


「本日は、どのようなお食事をご所望でしょうか?」


声のする方を見る。


そこに立っていたのは、人の形をした“何か”だった。


二人いる。

まるで鏡写しのように、そっくりな双子。


腰まで届く銀色の髪。

宝石のような青い瞳。

そして――青みがかった肌。


「……?」


喉が動いた。

声が出ない。


「ご気分が優れませんか?」

「鏡を、お持ちいたします!」


二人は慌てた様子で、私の前に大きな鏡を運んできた。


私は、そこに映った姿を見て――息を呑んだ。


……誰?


鏡の中には、私がいた。


でも、違う。


肌は淡い青。

ところどころに、紫や赤の光が滲んでいる。

髪は青を基調に、赤や橙が混ざり合い、まるで光そのもの。


目。

白目が赤く染まり、その中に、ネオンのような青が輝いている。


――綺麗。


そんな言葉が、最初に浮かんでしまった。


「……これは」


新しいレベル?


新しいアバター?


胸に、どこか安堵が広がった。

ここなら、前の世界より――


「御主人様……?」

「何か、お気に障りましたでしょうか?」


双子の少女たちは、突然ひざまずいた。


「申し訳ございません!」

「すぐにお許しを……!」


……え?


「ち、違う。怒ってない」


私がそう言うと、二人は目を見開いた。


「……?」


まるで、叱られると思っていた子猫みたいだ。


――なるほど。


この世界では、私は“偉い立場”らしい。


「食事を持ってきて。あなたたちのおすすめで」


それだけ言うと、二人は顔を輝かせて飛び出していった。


運ばれてきた料理は、見たことのないものだった。

青い半透明の塊に、花びらのような飾り。


恐る恐る口に入れる。


……甘い。

草のような香り。

でも、悪くない。


「ここは……どこ?」


何気なく聞いたつもりだった。


しかし、二人は一瞬、固まった。


「……御主人様」

「お名前を、お忘れに?」


しまった。


私は少し考えてから、言った。


「……確認しているだけ。私の正式な名前を」


双子は、同時に頭を下げた。


「レジーナ・ア=ミンヴィ・タンペット様でございます」


……長い。


覚えるだけで、頭が痛くなりそうだった。


――つまり。


私は、この世界で

“レジーナ”という人物になっている。


理由は分からない。

ルールも分からない。


でも。


この世界は、前よりもずっと――


美しくて。

危険で。

そして、現実味があった。


私は、胸元に手をやった。


そこに、冷たい感触があった。


――あの、老人の護符。


「……繋がってる?」


呟いた瞬間、

遠くから、重く長い鐘の音が響いた。


この世界が、始まった合図のように。


私は、微かに笑った。


「大丈夫」


「ここは、きっとゲーム」


「……そうでしょう?」


そう信じないと、

壊れてしまいそうだったから。

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