第11話 摩擦

───


呼び止められて、足を止める。


振り返らない。


その必要があるかを、先に判断する。


背後では、ダンジョン管理の職員が数名、現場対応を続けている。

内部ログの確認。

想定外反応の照合。

停止したボス個体の扱い。


どれも、こちらに直接関係づけられる要素はない。


形式上、問題は起きていない。


「……おい、」


声をかけてきたのは、ツヨイゼだった。


職員たちはその場に留まり、書類と端末に意識を戻している。

このやり取りに、割り込む理由がないと判断したのだろう。


「お前、DE使ってないよな?」


問いは短い。

だが、迷いが含まれている。


(見ていた)

(追いついていた)

(なのに、使っていなかった)


思考が、そのまま流れ込んでくる。


確認ではない。

断定でもない。


ただ、理解できないという感触だけがある。


「モンスターの崩壊を見届けました。

 報告は以上です」


事実だけを返す。


虚偽はない。

余分な情報もない。


ツヨイゼの思考が、一瞬止まる。


(……それだけ?)

(どうやったかは?)

(いや、聞いていいのか?)


続けて何かを言おうとした気配があったが、

言葉にはならなかった。


「はい。では」


それだけ告げて、歩き出す。


引き止められることはなかった。


背後に残るのは、

解釈できない違和感と、処理されない疑問だけだ。


外に出る。


空気は変わらない。

世界は、何事もなかったかのように流れている。


帰路につく。


人形回廊も、同じように待っているだろう。


――帰宅。


靴を脱ぎ、最低限の動作で室内を通り、浴室へ向かう。

湯を張り、身を沈める。


温度は問題ない。


水音の中で、思考を整理する。


こちらが孕み手を務めるダンジョン内で、産めるものには限りがある。

戦闘能力に欠く人形。

それに付随する装飾。

構造物。


ボス、という枠組みが存在することは知っている。

だが、人形回廊にはない。


全てを等しく愛している。

特別扱いはしない。


こちら自身も含めて。


アクティビティのような施設を作ることは否だ。

衝撃に弱い構造上、成立しない。


食事を提供するダンジョンも否。

母体以外、飲食はできない。

こちらにも、その知識はない。


戦闘を目的に人を呼ぶことはできない。

楽しさの提供も難しい。


再確認する。


人形回廊は、

一般的な成功例を、ほぼすべて採用できない。


非常に困難な条件だ。


だが――

現状、旅に出している子らは百を超えている。


同時に操作できる数には限界がある。

それでも、人形たちを連れ去ったのは、すべて攻略者だ。


世界の側が、運んでいる。


これは、弱点ではない。

条件だ。


このアドバンテージを、どう活かすか。


視点を切り替える。


鍵は、ダンジョンエフェクトにある。


湯の中で、静かに結論を置く。


問題は整理できた。


母体として、

続行する。



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