第9話 反応

───


グミは、想定どおりだった。


ツヨイゼが踏み込み、

動線を切り、

技術を重ねる。


身体が軽くなり、

拳が通る。


粘性が崩れ、

赤い塊が床に散る。


(余裕)

(この階層ならこんなもん)


短い。

甘い匂いだけが残る。


「ほらな」


振り返る背中に、

安堵が混じる。


戦闘としては、終わりだ。

だが―─


進んで、少し経つ。


空気が、

変わる。


甘さの奥に、

焦げた砂糖のような匂い。

重い。


(……?)

(こんな反応、あったか?)


足を止める。


床の装飾が、

わずかに震える。


理由を考える。


ダンジョンマスターは、

コアを体内に有している。


それは、

外からは見えない。

だが、存在する。


奥へ進んだ。

距離が縮まった。


─―反応したのか。


こちらの、

ダンジョンコアに。


床が、

盛り上がる。


飴細工が潰れ、

チョコレートの壁が歪む。


(嘘だろ)

(聞いてない)


巨大な塊が、

引きずられるように現れる。


ぐちゃぐちゃだ。


色は濁り、

形は保てていない。


グミとも、

菓子とも言えない。


お菓子で出来た残骸を、

無理やり集めたような存在。


声が、聞こえる。


「……ァ……」

「……ぐ……」

「……("p@…」


支離滅裂だ。


意味として、

繋がらない。


(何だこれ)

(ヤバい)

(無理だ)


ツヨイゼが、

即座に判断する。


逃げる。


踵を返し、

こちらに戻る。


腕を伸ばし、

抱き寄せる。


持ち上げようとして――

止まる。


「……っ?」


力を入れ直す。


上がらない。


(重い?)

(いや……違う)


こちらは、

動かない。


「来い!」


背後で、

巨大な影が動く。


床が沈む。


「こちらは問題ないです。

 先に。」


短く伝える。


(……は?)

(置いてくのか)

(でも……)


もう一度、

持ち上げようとして、

諦める。


(無理だ)

(理解できない)

(生き残る方だ)


手を離す。


「……死ぬなよ!」


走り去る。


思考が、

遠ざかる。


静かになる。


巨大な存在が、

こちらを向く。


声が、

再び流れ込む。


「……あ……」

「…gt'……」

「……09……」


断片だ。


人の言語ではない。


(命令)

(衝動)

(混線)


人間相手でなければ、

こうなるのか。


理解する。


なら――

こちらも、

人間向けの対処は不要だ。


久しぶりの戦闘だ。


だが、

可能だろう。


意識を定める。


人形制作に基づく。


ガラスの眼球を、

顕現させる。


透明で、

冷たい。


視線を持たない眼。


そこから、

涙のように

白い石膏が流れ出す。


滴り、

広がり、

形を取る。


型取りだ。


原型を包み、

固定し、

拘束する。


ビスクドールを作る手順と、

同じ。


巨大な塊が、

石膏に触れ、

動きを鈍らせる。


声が、

歪む。


「……ァ……?」


意味は、

もう要らない。


対処を続ける。




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