第5話 攻略
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攻略をしたことがない。
成人した頃には、すでにダンジョンマスターだったからだ。
資格が付与された時点で、管理画面は開いていた。
申請も選択もない。
拒否という概念も存在しなかった。
ただ、そうなっていた。
攻略者として迷宮に入る、という行為は
成人した際の権利の一つとして習っていた。
多くの者が、その立場で内部を歩くらしい、という情報として。
外部からの管理で支障はなかった。
人形回廊は低危険度に分類されている。
事故報告もない。
改善点は、数字上は存在しない。
それでも、違和感は残る。
攻略者の気持ちが分からない。
怖いのか。
楽しいのか。
あるいは、可愛いと思うのか。
分からないままでは、改善は遠回りになる。
そう判断した。
出掛ける前に、確認を行う。
服を脱ぐ。
生活のための布を外し、身体を露出させる。
鏡は見ない。
必要がない。
皮膚の状態を確認する。
欠損はない。
可動域も正常。
区切りを描く。
肩。
肘。
手首。
指。
腰。
膝。
足首。
そして、首。
円を描く。
子らと同じ位置。
同じ幅。
首は重要だ。
視線と方向を制御する。
稼働させるためには、明確な区切りが必要になる。
線をなぞり、太さを揃える。
左右差を修正する。
装飾ではない。
確認だ。
この身体が、今日も管理対象として成立しているか。
人形と等しい条件にあるか。
問題はない。
服を着る。
外に出るための形に戻す。
線は消えない。
見えなくなるだけだ。
登録窓口は、想像よりも事務的だった。
白い壁。
案内板。
番号札。
順番を待つ。
担当者は若い男だった。
視線がこちらに向いた瞬間、わずかに動きが止まる。
(え)
(人?)
(……いや、待て)
視線が上下に走る。
姿勢。
歩き方。
首元。
(違和感)
(だが、服装規定には触れていない)
「……攻略者登録、ですか?」
声は平静だ。
頷く。
(初回だな)
(年齢は……問題ない)
(でも、様子が……)
「身分証をお願いします」
提示する。
端末に情報が入力されていく。
年齢。
住所。
既往歴。
(空白が多い)
(病歴は……休学中?)
(理由が書かれていない)
「ダンジョン経験は?」
ない。
(未経験)
(この年齢で?)
(なのに登録?)
「戦闘訓練は?」
ない。
(完全に初心者)
(危険では?)
(だが、止める権限はない)
「……登録理由を伺っても?」
理由。
整理する。
攻略者の心理を理解する必要がある。
それは改善に繋がる。
改善は管理効率を上げる。
「改善のためです」
短い。
(意味が分からない)
(改善?)
(何を?)
沈黙。
(深掘りすると面倒だ)
(しかし、このまま進めていいのか)
(規約上は問題ない)
「……服装、少し変わっていますね」
(注意すべきか)
(いや、規定違反ではない)
(宗教? 趣味?)
「管理上、問題はありません」
(会話が噛み合っていない)
(だが、業務を進める)
説明が始まる。
「初回登録の場合、5級攻略者からのスタートになります」
(無難だ)
(高ランクは危険)
(この人には5級で十分)
「低危険度迷宮のみ。
戦闘は推奨されません」
それでいい。
「理解しています」
(理解?)
(何を基準に?)
「……理解、とは?」
「規約の範囲内で行動します」
(抽象的だ)
(だが、否定材料はない)
端末操作。
確定音。
「5級攻略者として登録します」
カードが差し出される。
軽い。
余計な装飾もない。
十分だ。
「……あの」
呼び止められる。
(やはり不安だ)
(念のため言っておくべきだ)
「危険だと思ったら、すぐ引き返してください」
必要な忠告だ。
「問題は起きません」
(断言?)
(なぜ?)
(根拠がない)
だが、もう業務は終わっている。
「……お気をつけて」
外に出る。
攻略者登録。
5級。
管理対象としては、低い。
だが、目的には十分だ。
扉の前で、一度だけ立ち止まる。
確認は済んでいる。
身体も、立場も。
まぁ、
こちらは
母体、
なのだから。
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