第4話 観光

───


人形回廊は、低危険度に分類されている。


攻略サイトにはそう書かれていた。

戦闘向きではない。

稼ぎにならない。

雰囲気重視。


だから、選ばれる。


初めてのダンジョンとしては、ちょうどいい。

装備も最低限で済むし、命の危険も少ない。


入口は、思っていたより整っていた。


暗いが、不潔ではない。

床は均され、壁も補修されている。

古びてはいるが、放置されている感じはなかった。


中に入ると、すぐに人形が見えた。


白い肌。

ガラスの目。

関節の区切り。


動かない。


分かっている。

分かっていても、足が止まる。


「……ああ、これか」


怖い、という感情は確かにある。

だが、それだけではない。


距離が、妙だ。


近すぎない。

遠すぎない。


正面を向いていないのに、存在感がある。

視線を合わせていないはずなのに、意識から外れない。


武器に手が伸びる。

だが、振る理由がない。


敵ではない。

罠でもない。

襲ってこない。


進む。


奥へ行くほど、人形の数は増える。

だが、雑然とはしていない。


並んでいる。


展示、という言葉が頭をよぎる。

美術館。

博物館。


説明はない。

解説文も、歴史もない。


あるのは、人形だけだ。


不思議と、歩調が落ち着いてくる。


さっきまであった緊張が、薄れていく。

怖さは消えていない。

ただ、慣れる。


「……思ったより、ちゃんとしてるな」


誰に向けたでもない言葉が、口をついた。


出口付近に、案内があった。


《記念品あり》

《一人一体まで》

《持ち帰りは任意》


少し、迷う。


倒したわけではない。

手に入れた実感もない。


ただ、選べる。


棚の一角に、小さな人形があった。

装飾は控えめで、軽そうだ。


近づいても、さっきほどの抵抗がない。


手に取る。


冷たい。

だが、嫌な感じはしなかった。


出口を出た瞬間、空気が変わる。


さっきまでの圧迫感はない。

外は、ただの現実だ。


「……あれ?」


思わず、振り返る。


入口は、もう普通のダンジョンに見える。

暗いが、怖くはない。


帰宅後、人形を棚に置いた。


部屋の隅。

視界の端。


電気を消す前に、何気なく見る。


人形は、動いていない。

配置も、変わっていない。


なのに。


「……案外、可愛いな」


そう思った自分に、少し驚く。


怖い、と思っていたはずだ。

持ち帰るか迷ったはずだ。


今は、そうでもない。


棚の位置を、少しだけ調整する。

落ちないように。

見やすいように。


それだけだ。


特別な理由はない。

何も、起きていない。


ただ、

この場所に置くのが、

自然な気がした。



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