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 「うーむ…非常に悩ましい…」


 駄菓子屋の外に置いてある冷凍庫を眺めながら、そう呟くお姉さんは難しい顔をしていた。


 「キッズは何にするんだい?」


 「そうですねー、僕はガリガリ君にしようかな」


 「キッズにしてはいいセンスだ。私の育て方がよかったんだろうね」


 へへん、とドヤ顔のお姉さんであったが蓮がこの人から学んだことはこの世には一般常識が通じない例外がいる。ということだった。


 「キッズ今何か、すごい失礼な事考えてなかった?」


 「え、ははーそんなことないじゃないですかーやだなー」


 「そういう態度をとるならこれとこれも買ってもらうからね~」


 そう言いながらお姉さんはポテトチップスを二つ取り上げた。


 「えぇー…」


 「安心してくれたまえ、このポテチを買ってくれたら今日で課題が終わることを約束する!」


 「信じますからね」


 「へへ、やったー」


 ガリガリ君ソーダ味と駄菓子屋でしか見たことないミカンアイス。それと、うすしおとのりしお味のポテトチップスをもって会計をしようと思ったのだが、店員のおばあちゃんの姿が見えない。


 まぁいつもの事だ。と蓮は思いバックヤードに向かって声をかける。


 「すみませーん!」

 

 「はーい、今行きまーす」


 あれ、と思う。いつものおばあちゃんの声じゃない。もっと若くて少し色気のある、おっとりとした声だった。

 

 「お待たせしてすみません~」

 

 バックヤードから出てきたのは、黒絹のような美しい髪を束ねたポニーテールをぶら下げ、黒縁メガネをかけた大学生?だろうか。それはともかく、息をのむほど美人な人だった。

 

 「は~い、今お会計しますね~…あら?もしかして蓮くん?やっぱり蓮くんじゃない!久しぶりね~!」


 いきなり名前を呼ばれてびっくりした。なんで自分の名前を知ってるんだろう、とはてなを浮かべる蓮であったが少しの間、相手の顔を見つめると何となくだが思い出してきた。


 「あれ?もしかして萌姉さん!?」


 「んふふ、そうよー久しぶり」


 彼女の名前は浅妻萌あさつまもえ。昔はよく蓮と遊んでいた、幼馴染というやつだ。萌が東京の大学に入ってから、こっちには一回も顔を出したことがなかったのに…どうして今頃になって帰ってきたのだろう?


 「帰ってきてたなら言ってよー」


 「やっと時間がとれてね、たまには帰ろうと思ったのよ。それで今は実家のお手伝い中なの。蓮くんもこんなに大きくなって~お姉さん嬉しいわ。ちゃんと勉強してるの?遊んでばっかじゃだめよ!」


 「あははは…」


 この世話焼きなところも懐かしい。萌姉とこうやって顔を合わせるのは実に2年半ぶりだろうか。なんというか、大人だ。歳は5つ違うし当たり前なのだがいつも話している年上はなんというか…うん…一般的ではないから…


 まぁそれも相まってすごい違和感を覚える。


 「そちらの美人さんは…もしかして蓮君の彼女さん?」


 「え。俺が藍姉と???ないないないないない!絶対ない!」


 あいとはカスな方のお姉さんの名前である。


 「なんだよキッズーそんなに否定しなくてもいいじゃないかー!私に失礼だぞー」


 「ふふ、二人とも仲がいいのね」


 微笑みながら萌姉が言う。


 「もちろんだ」


 「……」


 「キッズーなぜ黙るんだい?」


 「いや、仲がいいというか、毎回絡まれてお菓子とかせびられるだけだし…仲がいいとは違うような…」


 「!?…蓮くんが年上にせびられてる…毎回

…仲がいいとは違う…まさか…カツアゲ!?」


 萌姉は小声で蓮が言ったことを一つ一つまとめていき、ひとつの結論に至った。しかし、それは大分的はずれなものだったが…


 「何を言っているんだい?まるで私が年下からおごってもらっている情けない先輩みたいじゃないか」


 その通りだよ。という言葉を蓮は飲み込んだ。なぜなら藍姉のうしろに鬼の形相のでたたずむ萌姉がいたからである。


 「藍さん…でしたっけ?少し聞きたいことがあるんだけどー」


 表面上はにこにこしているがその眼光はハイライトがなく、目の周りの筋肉はぴくぴくと痙攣している。

 

 「ヒュ…」


 蓮は恐怖で声にもならない声を出して身を震わせていた。長い付き合いだったから分かる、この顔になった萌姉は。一方当事者はと言うと…


 「ん?なんだい?急ぎじゃないなら後にしてくれないか、今はヤッターメンの重さを比べているんだ。これで当たりを引きまくれる…へへ…」


 驚くほどのマイペース。まぁいつも通りの事なのだが…萌姉の表情がどんどん硬くなっていく。


 「年下の男の子に対して…それも私の蓮君に対しておごらせてるって貴方正気なの?」


 「いや、今回はちゃんと対価として課題を手伝う約束をしたよーねぇキッズ?」


 「え、あ、はい。」


 「明らかに戸惑ってるじゃない!」


 どんどんヒートアップしていく萌姉。それと対極的なほど落ち着いている、というか興味がなさそうな藍姉。


 「まぁまぁ、萌姉落ち着いて――


 「落ち着いていられるわけないじゃない!」


 なだめようとする蓮の声を遮る。ここまで怒っている姿を見るのは久しぶりだ、


 「久しぶりに帰ってきて、蓮くんに会ったらこんな悪い人と関わってるなんて!私は怒っています!」


 「いや、まあでも課題を手伝ってもらうのは本当だし。今日で最後って言ってたし…少なくとも悪い人ではないよ、」


 変な人ではあるけど。


 「ほら言っただろう?とりあえず早く会計をしてくれないか?もう暑くて体がとけちゃいそうだよ」


 「うぅー」


 萌姉は蓮からお金を受け取り、納得がいっていないような表情でアイスとポテチを袋に入れた。


 「じゃあ、またくるよ。萌姉には色々話したい事もあるし」


 「うん!また来て、私も聞きたい事たくさんあるし…」


 藍姉の方を見ながら言う。


 「あはは…じゃあまたね」


 「うん、また来てねー」


 そうして二人は駄菓子屋を後にした。


 ちなみにアイスは半分ほど溶けてしまっていた。

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カスのお姉さん 零o @notseecat

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