カスのお姉さん

零o

1

 夏、地方都市。

セミと風とそれに呼応する草木のざわめき。

清々しいほどの夏に公園で一人くつろぐ青年の姿があった。


 「あぁ…暑い…」


 彼の名前はれん。このあたりの住宅街に住む高校一年生の男の子だ。


 服をパタパタと扇ぎ、何とか体の熱を逃がそうとしている。が、それも無駄なほど暑いことに気づきすぐにやめた。


 「あ、数学やってない」


 もう夏休みも終盤。残る課題を思い出し、少し焦るが考え事をすると頭が痛くなってくるので見てみないふりをする。


 「キッズー」


 「ぁ」


 どこからともなく聞きなれた声がした。


 「やぁキッズー、このクソ暑い日に一人で何をしているんだい?」


 彼女は蓮の近所に住むお姉さん。基本いつでもいるし、どこにでもいる。愉快なお姉さんだ。…少々愉快が過ぎるときもあるけど。


 「私はキッズの家で涼もうと思ったんだがね~家にいないじゃないか!まったく困るよ~ただでさえこんなクソ暑いのにキッズが家にいないと私が涼む場所がなくなってしまうじゃないか」


 「まさか、まだエアコン修理してなかったんすか……」


 「へへ、だって~面倒くさかったし~お金がなかったんだも~ん」


 夏が来る前にあれほど修理をしておけと言ったのに!と呆れ顔の蓮であったがそんな事お構いなしでお姉さんのトークは続く。


 「こんな暑いんだ、こんな日にはあるものが食べたくなるよね。そうア・イ・ス!食べたくなるよね~そうだろうキッズ!てなわけで駄菓子屋に行こうじゃないか!」


 「いくら持ってるんすか」


 「ん?何を言っているんだい?もちろんキッズのおごりさ。こんな美人にアイスをおごれるなんて嬉しいだろう?」


 「すぅーーーー……はぁーーーーーーー」


 頭が痛い。暑さのせいかお姉さんのせいか…多分後者だろう。このずぼらさと図々しさ。いつまで経っても慣れない。いや、慣れはしているが世間一般の価値観とずれ過ぎていて体が警告信号を出している。


 「なんで毎回年下の僕におごらせるんすか…たまには年上っぽいとこ見せてくださいよ」


 「キッズーー私たちの仲じゃないか!パピコを半分こしたあの日を忘れてしまったのかい!あの日から私たちはつらいことも嬉しいことも二人で乗り越えようと誓ったじゃないか!」


 「いやいやいや!そんな誓い立ててないし!あの時のアイスだって僕が一人で食べようと思ったのに、お姉さんが勝手に食べちゃったんじゃないですか!」


 しかもこのパピコ。蓮が残りの半分を冷蔵庫に入れておいたのに食べられていたのだ、つまりお姉さんは勝手に部屋に入り勝手に人の冷蔵庫を開け勝手にパピコを食べたのだ。さすがの蓮も怒り、お姉さんは反省した…はずだったのだがこのありさまだ。


 人は簡単には変われないということがよくわかる。


 「お願いだよキッズー、まだ課題終わってないんだろう?アイスおごってくれたら勉強手伝ってあげるからさー」


 「っう……」

 

 課題を手伝うという言葉に蓮は揺らいだ。というのも蓮の高校はこの辺りでは有名な進学校で授業の難易度も高い。もちろん課題の難易度も高いうえに量も結構ある。お姉さんに手伝えるのか疑問だったが、同じ高校の卒業生で成績も常にトップだったらしい。

 本当かどうかは分からないが、頼れるほどの親しい友人もいないし両親も仕事で海外に赴任中だ。

 ここはしょうがなく、本当にしょうがなくお姉さんに頼ることにした。


 「今日で最後ですよ」


 「やった!さすがキッズー!おねえさんほどではないけど大人ー!」


 少しため息をつきベンチから腰を上げる。


 「キッズー今朝の仮面ライダー見た?面白かったよねー」


 「何歳だと思ってるんですか!?」


 「えー男の子はいつまで経っても仮面ライダーは好きだろう?おねえさんはまだ見ているしねん」


 「えぇ…」


 そんな会話をしながら二人は駄菓子屋へと向かって行った。

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