謝りたい……
「更紗ちゃんっ!」
――え?
気がついた時には、私の腕に柔らかくて温かい感触が押し付けられていた。
「へ、栞ちゃん!?」
横を見るとそこにいたのは伊達メガネを外し、前髪を短くしている。完全体となった栞ちゃんだった。
このシーンは知っている。漫画、小説、ゲーム、アニメ――。
何度も見たことのある光景だ。
「ふふ、驚いた?」
いやいや、なんで……!?
*
「おはよ更紗ちゃ……え?」
「ああ、おはよ……すずめちゃん」
「おはようすずめさん」
教室に入ると、いつも通りの可愛らしい挨拶をくれたすずめちゃんに、私は顔を背けてしまう。
その”状態”を見たすずめちゃんも驚きの表情を隠せていなかった。そして教室が騒ぎ始める。
「何あれ!?」
「え!? 誰あの可愛い子」
騒ぐみんなを見て思わず「はぁ……」とため息をついてしまう。
原作でもここはみんな騒いでいた。まぁ、私なんかのモブじゃなくてすずめちゃんだけど……。
そして、私の横で腕を絡めてきている栞ちゃんが、私の目を見て一言呟く。
「……ダメだった?」
「いや! そんなことは……」
こんな可愛い子に腕を組まれて嫌なはずはない。でも、状況が状況だ。
私はひとまず栞ちゃんの腕を外し、自分の席にカバンを置いて座る。
栞ちゃんも自分の席にカバンを置くと、クラスの人たちが「あれ栞さんだったの!?」「嘘、見えない」と再び声が上がった。
「え? え?」
すずめちゃんも、さっきまで腕を組んでいた私と栞ちゃんを混乱した様子で視線を交互にしている。
やってしまった……でも何がダメでこうなったんだろう。
私はみんなに囲まれている栞ちゃんを見て、頭を抱える。
考えられることは……特にないんだよな。私は原作のセリフを一言も言ってないし、ましてや、ただ話を聞いただけだ。
原作ではすずめちゃんが友達のグループに入れるっていう展開になってたんだけど……。
「うぅ……」
「大丈夫?」
私は頭を抱えながら顔を俯けると、隣で心配そうな顔をしているすずめちゃんが優しく声をかけてくれた。
「大丈夫、なはずなんだけど……」
だけど……すずめちゃんに猛烈に謝りたい。
すずめちゃんは青い綺麗な髪をサラリと揺らし、不思議そうに私を見てきた。
まぁ、まだ何かしちゃったとは限らないよね。
「あ、そうだ。明日一緒に遊ばない?」
不意にすずめちゃんが私のことを誘ってくれた。
でも、こんなモブなんかが遊んでいいのかな……個人的に遊んでみたい気持ちはめっちゃくちゃあるんですけど!!
「うーん」
少し考えていると、いいことを思いついてしまった。
というか、私がすずめちゃんのことを栞ちゃんに紹介して友達にすれば、今回のことも一件落着なのでは……!?
「よし、いいね! 遊ぼう!」
「珍しく元気だね。でも何して遊ぶ?」
うーん、と考え込むすずめちゃんに私は咄嗟に思いついたことを話す。
「じゃあ、家来るのはどう?」
「え、私はいいけど突然行って大丈夫なの?」
「大丈夫だよ、それに話したいこともあるしね……」
ふふふ、とあからさまに不気味な笑みを浮かべてしまった。
いや本当に変なこと話すわけじゃない。ただすずめちゃんと普通に話したいことがあるだけで……。
「更紗ちゃん」
「あ、はい!」
不意に名前を呼ばれ、反射で立ち上がってしまう。私の名前を呼んだのは栞ちゃんだった。
「今日一緒にご飯食べたいんだけど、いい?」
栞ちゃんはすっとすずめちゃんに視線を送り、微笑んだ。
この流れ、もしかして軌道修正のチャンス!?
「よし、そうしよ! みんなで食べたほうがやっぱり美味しいよね!」
「それもそうだね、わかった。栞ちゃんも一緒に食べよう」
「ありがとう」
二人は仲良く笑顔を交わしあってくれた。私は心の中でガッツポーズを決める。
これで軌道修正完了――なはず。
「……って、なにしてるの……?」
「なにって、ただご飯食べているだけだけど?」
「それにしては近すぎるよ!?」
お昼ご飯の時間、いつも通りみんなで机を合わせて食べている。
でも、栞ちゃんは私の隣、というより、体をくっつけてこちらに預けてきている。
……なんでこんなに私と距離が近いんですかね……。
周りのみんなもあからさまにおかしいことに気付いているのだろう。でも、栞ちゃんだけは平然とご飯を食べている。
「っていうか、栞ちゃんのお弁当大きいね」
栞ちゃんが食べているのは、おせちとかの何重にもなっているタイプのお弁当だった。それを見てすずめちゃんが話しかけた。
「ああそうだね、小さめにしてとお願いしても毎回このサイズになってるんだ」
「へー、美味しそう!」
何気なくそんなことを口にすると、栞ちゃんは待っていましたと言わんばかりにお肉を箸で掴んで私の口の近くに持ってきた。
「え?」
「一口どうぞ」
「いや私は……」
私じゃなくてすずめちゃんに……!
断ろうとすると、栞ちゃんは唇を尖らせてもう一度「どうぞ」とさらに箸を私に近づけてきた。
私は断れるはずもなく、ぱくっと食べてしまう。
「美味しい?」
「美味しい……です」
「ならよかった」
ふふ、と上品な笑みを見せた、私は罪悪感で顔を俯ける。
なんだか、いけないことをしてる気分。それに、原作ではすずめちゃんが栞ちゃんが膝枕をして食べさせるところなんだけど……。
二人を見ると、そんな様子は一切ない。というか栞ちゃんは私のことをキラキラした目で見てきて微笑んだ。
「そうだ、連絡先交換しよ」
「ああ、いいよ」
私はスマホのQRコードを読み取ってもらい、交換した。
「ありがと、今日の夜連絡するね」
「あ、わかった」
スマホを持ってにこっと笑う栞ちゃんに軽く返事をする。すると――。
「え、うちも交換したい!」
「うちもうちも!」
一緒にご飯を食べていた人たちが次々と栞ちゃんに連絡先を訊き始めた。だが栞ちゃんは一言呟く。
「ごめんなさい、友人としか交換しないって決めているの」
「「「え……」」」
栞ちゃんが言ったことはあなたたちは友達じゃありません。と同等の意味を持ち、合わせて私はほかの人たちよりも仲が良いということを周りに伝えているようだった。
そしてちらっと私の方に視線が向いた。私が居心地の悪さで視線をもちろん逸らした。
なんだこの展開は……。
*
「店長、私はどうしたら……」
「そうだなぁ……ってなんで俺の店で相談事しに来てんだよ……」
私は再びあきた屋に来ていた。このおじちゃん、見た目に反してかなり優しいおじちゃんで相談事に乗ってくれているシーンも多く書かれていた。
原作では、なぜか要所要所で核心を突く人だった。
別に私が個人的な相談をするには進行的な問題はないはず。でも、今の進行的にはまずいとしか言えないんだよな。
「友達と友達? をくっつけるにはどうしたらいいですかね」
そう店長に訊くと、店長は少し困ったように頭を掻いた。
「あのなぁ、女子高生の恋愛事情なんて俺が知ってるわけねえからな……」
「そうですか……」
あれ? 原作では意外と名言を連発してくれていたはずなんだけど、おかしいな。
「こういうのはあいつのほうが詳しいからな……ちょっと待ってろ」
「うーん……あ、いやそこまでは――」
色々なこと考えていると、私が呼び止める前に”ある人”を呼びに行ってしまった。
ある人ってもしかして。
私は察してしまう。このあきた屋の店長が呼んでくる人を、でもここで会ってしまったら……!
そんなことを考えて慌てていると、奥から金髪がさらりと揺らされ、一気に店の雰囲気が変わったように感じた。
ーーーーーーーーーー
【あとがき】
少しでも「続きが気になる!」と思っていただけましたら。
フォローと☆☆☆を入れていただけますと、大変励みになります!
皆様からの応援が書き続ける、何よりのエネルギーになります。
応援よろしくお願いいたします!!
ーーーーーーーーーー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます