第6話-決戦-

 正午になり、あたしはようやく目を覚ました。

「あれ、あたし……。そっか、ウサギと鳥が喋ってたのは夢じゃなかったのね! ていうか、頬が痛い!」

 周りを見ても二羽の姿はどこにもない。

 鏡がないけど少し赤くなってるんだろうなと思った。

 大方ルナがあたしを起こそうとして、嘴でつついたであろう事は予想できた。

 (嫁入り前の娘の顔に傷痕が残ろうものなら、焼き鳥にしてやるんだから!)

「物騒な顔をしてるのう」

「だからやめましょうと止めたんですよ! 焼き鳥にされますよ……」

 二羽が戻ってきた早々、不機嫌なあたしの顔を見てそう言った。

「本当に焼き鳥にするわよ! あたしの顔は木じゃないんだから、突くなら木にしなさい!」

「私は啄木鳥ではないんでな。大声で怒鳴っても、火依はびくともしないからのう。なら、次はアルテミス。お主が起こせばいい」

「いいいいいい、嫌ですよ! わたしは丸焼きにされますよ!」

 この動物たちは、あたしをなんだと思っているのか。

 アルテミスの人間恐怖症も困ったものね。

 あたしは仲良くしたいと思ってるのに、これは骨が折れそうね。

 それから何日か前から視線を感じる気がした。

 それをルナたちに話しても相手にしてくれなかった。

 仮にそうだとしたらルナが気づかないはずがないということらしい。

 そう言われたら返す言葉もなく気のせいだと思うことにした。

 

 あれから山を越え山頂に到着し何もない場所でルナが対話する。

 どうやら人間を滅ぼした神と対話しているようだった。

 ルナの役目は人間の生存の確認だった。

 そしてまぶゆい光がドアの形になりルナが『こっちへこい』と視線を送る。

 私とアルテミスも導かれるままそのドアに吸い込まれた。



「ご苦労だったな、ルナ。しかし、迂闊だったな。招かねざる人間が一人いるようだが」

 少年は銃をルナに向ける。

「気配はしなかったはずじゃ、どうやった?」

「…それに応える筋合いはない」

「人間がここまで蒙昧だったとはな。そんなもので、我々を脅しても無駄だ。お前が銃の引き金を引く前に、我々の力で無力化出来る」

 少年は銃を下ろすと、不気味に笑った。

「愚かなのはお前たちだ。何の勝算もなく、こんなものでどうにか出来ると思っていない。この瞳を見ても同じことが言えるかな?」

 前髪で隠していた左眼が露わになると、邪悪な気配がした。

「それは……魔眼! 馬鹿な、そんなものを手にすれば、お前も死ぬのだぞ!」

「構わない。人間を家族を……絶滅に追いやった報いを受けるがいい!」

 少年の瞳から禍々しい紫色の光が、逃げ惑う神々に襲いかかった。

 神々は魔眼を授けた冥界の悪魔を呪った。

 時折、悪魔は人間界に来ては、人の寿命と引き換えに魔眼を与えていた。

 それは悪魔のほんの暇つぶしに過ぎない。

 取引した殆どの人間は、適応出来ず死に至る為、悪魔だけが得をする。

 だが、適応すれば絶大な力を持つことが出来、それは神でさえ殺すことが出来るシステムだった。

 長い歴史の中で適応した人間はほんの数人しかいなかった。

 そして全てにおいて、全員が悪に染まった人間に限られた。

 その理由としては、負の感情に支配された人間の魂は、悪魔にとって美味しい食事だからだ。

 今まさに神々を飲み込もうとする邪悪な光。

 もはやこれまでかと思い覚悟を決める神々だが、刹那どこからか降り注ぐ羽根と共に、眩い光が邪悪な光をのみ込んだ。

 神々は驚いて光のありかを辿ると、一人の少女が立っていた。

 少女の瞳から神々しい金色の光が放たれている。

「その瞳は……なんだ……。人間がそんな善に満ちた瞳の力を手にすることなんてありえない!」

 神々は大層驚いた。

「間に合ったようですな。神様、大丈夫ですか?」

「ルナ、お前……、片目はどうした? あの瞳は特別なものだったと言うのに。まさか! 人間に移植したのか。なんて愚かなことを」

「愚かではありません。この少女を見つけたあの夜、邪悪な人間の気配を感知しました。いつかこんな日が来るかもしれないと危惧してました。保険としてこの少女に託しました。この火依は今まで出会ったどの人間より、善で溢れていたからです」

「……」

 神々はルナの言葉を聞き、無言でいた。

 人間は自分勝手で強欲な生き物だ。

 中にはそうではない人間も少なからずいる事も判っている。

 だが、善の人間は激減し、九十七%が悪に染まっていた。

 もはやどうにも出来なかった。

 だから一度人間を滅ぼし、新たな人間を創ろうとしていた。

「お主は、我々神を憎んでないのか?」

「あたしの父は神父で、母親はシスターでした。小さな教会だったけど、毎日幸せでした。人類がウイルスに侵されたあの日、両親は言いました。これも神様の導き、人間は色々悪いことをしてきた。その報いはいつか来ると判っていた。だが、神様を恨んでいけない。悪いのは人間だ。いつか人間を赦してくれる日がやって来る。だから、火依。お前はその日が来るまで眠っていなさい。私たちは神の怒りが少しでも落ち着くよう祈りを捧げるから。それがあたしの聞いた最後の言葉です。あたしは恨んでません。だからお願いです。力を貸してください!」

 一度は少年の力を抑えていたが、徐々に少女の力が弱まっていく。

「この人間の裏切り者が! オレは諦めない。神々を殺してやる!」

 少年は咆哮し、その力は増大していった。

 神々はこの穢れのない少女に加勢することにした。

 それでもなお、優勢にはならない。

 人間の負の感情と魔眼が適合してるせいで、その力は極限まで高まっているのだろう。

 我々の力をもってしても、悪の力には勝てないのか。

 我々は化け物を産んでしまった。

 人間を侮っていた。

 少女の力はもう持たないだろう。

 少女の光が絶えようとする瞬間それは起きた。

 少女の手を繋ぐ二つの魂。

 『——火依、頑張ったな』

 『——私達が手を貸すわ』

「パパ、ママ! ありがとう!」

 三人の手が重なり光が勢いを増した。

 まさか、我々のことをここまで信仰してくれていたとは。

 死んでも尚、我が子を強く想い続ける愛。

 我々の人間を滅ぶす選択は、間違いだったのだろうか。

 一部ではあるがここまで善に満ちた人間は確かにいた。

 我々は考えを改めなければならないな。

「そんなありきたりな奇跡で、オレが負けると思うなよ!」

 再び善の光が押され、もはやこれまでかと思った矢先、少年の邪悪な光が急激に弱まり、まばゆい光と共に消えていった。

 恐らく魔眼の使いすぎで、その命が果てたのだろう。

 今回は時間が我々に味方したに過ぎない。

 勝負は時の運というが、まさにこの事だった。

 人間が悪が極限まで染まると、その力は我々の力を持ってしても、対抗出来ないという恐ろしさを知った。

 少女も力を使い過ぎたのか、そのまま膝をついて崩れるように倒れた。

 この少女がいなければ、我々は助からなかっただろう。

 人間がこのまま消えるのは時間の問題だろう。

 己の命を賭けてまで、他者を守ろうとする優しい人間。

 悪に染まり自分が思うままに他者を傷つける人間。

 我々が下す判断が決まった時、ルナが少女のそばに行き涙した。

「神様、ヒトは滅ばなければいけない存在ですか? 一握りかもしれませんが、火依みたいな人間がいることも忘れないで下さい。かつて、私もヒトに傷つけられ、両目を失いました。同時に私を救ったのもヒトでした。それが火依だったのです。彼女の美しい歌が、私を癒してくれたのです。彼女は隻眼だったので瞳を託しました。彼女と行動していくうちに、時々口ずさんだ歌で、私を救ったのも彼女だと直感しました。邪悪な存在に勝てるのは、彼女だけだと思い、神様から授かった目を託したのです」

 ルナの言葉を聞き、我々が下す判断を改めた。

「ルナよ、お主は人間となり、この人間と結ばれるが良い。人間と動物の共存の幕開けに明るい未来がくるだろう。アルテミスや、お主は悪い人間が出ないように少女の一族を見張ってほしい、頼むぞ。我々も遠くから見てるから安心しなさい」

「わわわ、わたしがですか? わたしに務まるでしょうか」

 アルテミスは、不安そうに我々やルナの目を見て恐縮している。

「大丈夫だ、君なら出来るとも」

 ルナはアルテミスを安心させるように言った。

「アルテミス、そなたを人間の行く末を見届ける神に昇格しよう。これからお主に過酷な運命が訪れるかもしれない。だが、お主は独りじゃない。我々がいる。ルナよ、その人間とアルテミスを連れ、現世へ戻るとよい。戻った時、お主は人間になっているだろう」

 我々は彼らを現世へ導くと、会議を始めた。

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