第2話 爆乳おねぇさんはどこかおかしい——

視線の先には、ふんわり爆乳おねぇさんが満面の笑みで立っている——


俺を……殺す?何だって……?


油断は出来ない。なぜなら俺は腐っても元御曹司であり、何かしら利用価値がある可能性があるからだ。命を狙われる可能性については昔から両親にそれとなく注意されてきた。


「えっと、すいませんまひろさん……ちょっと聞こえなかったのですが……もう一度ご要件をお伺いしてもいいですか……?」


そう言いながら俺はまひろさんから貰った粗品をそっと玄関脇に置き、逃げる準備を整え始める。


「すっ、すいませんっ……わたくし昔から声が小さいと言われてまして……」

「いえいえ、大丈夫ですよ……」


仕切り直すようにまひろさんが小さく咳払いをすると、もう一度ゆっくり口を開く。


「それでは改めまして。わたくし、悠真さんを殺す為にお隣に越してきたのですが……つきまして、それについてのご説明をわたくしのお部屋でお茶でも飲みながらさせていただければと……」

「…………なっ、せっ、説明?お茶?……ん?」


俺を殺しに来たのは間違いないらしい……が、今どきの殺し屋ってこういう感じなの?それとも余裕を見せつけて怖がらせてるの?どゆこと?


若干おどおどして説明しているまひろさんの胸元でふよふよと揺れる爆乳。

漂うゆるい雰囲気……逃げるなら今だ……。


「せっ……説明は結構ですっ!お心遣いありがとうございました!これで失礼します!!」

「あっ!?悠真さんっ!?待ってください!!」


意を決して一言告げ、俺は逃げる為に扉を閉めようとしたその刹那——


「あんっ♡♡…………いたいですぅ!」


耳に入り込んできたちょっとエッチな声。

湧き上がる良心に後ろ髪を引かれ、俺はついその声を方を確認してしまった。

俺の手元、玄関ドア……そこにまひろさんの片手と爆乳がぷるるんっと挟まっている。


「あ゛っ!?えっ!?ごっ、ごめんなさいっ!!」


慌ててドアを開け直すと、まひろさんは目に涙を浮かべていた。


「うぅぅ……酷いですぅ悠真さん……」

「すっ、すいませんっ!?きゅっ、急に殺すって言われたんで……怖くて、つい……」


俺は間違っていない……絶対に……。

そう思うも、まひろさんが眉をひそめて痛がっている顔を見てしまうと心が痛む。


「ううぅ……」

「すいません、俺のせいで……」

「おっぱいに跡がついちゃったかもぉ(泣)……もうお嫁にいけないかもしれません……」

「本当にすいません……何かあったら病院代請求してください……払います……」


殺し屋のくせに大袈裟じゃない?……死線くぐり抜けてるんじゃないの……?

頬を少し赤く染め、薄いニットに包まれた爆乳をさすっているまひろさん。

その手が上下するたびに生き物のようにおっぱいがたゆんと揺れ、谷間が歪み、俺の視線を釘付けにしてくる。


これも殺し屋の手口なら俺はまさにカモだろう。しかし、男とはそういうものなのだ。


そんな、ちょっとエッチな彼女の胸元に見とれていた次の瞬間——


俺の腕が何かに引かれ、腕に柔らかく暖かなものがお餅のようにまとわりついてきた。


「うぉっ!?」



————————むにゅ……にゅにゅにゅ……♡



気づけば視界には外の景色が広がっている。

どうやら一瞬の隙をつき、まひろさんが俺の腕にしがみついて外に引きずり出されていたようだ。

そして始まる些細なもみ合い。


「悠真さん!お願いですからお話聞いて下さいよぉ!」

「ちょっ!?ちょっとまひろさん!?」

「ちょっとだけ!わたくしの部屋でお茶するだけですからぁ!休憩だけですからぁ!」

「いやいやいやっ!?ラブホに誘うみたいに言わないで!?休憩じゃなくて説明があるんでしょ!?」


「ヘンなことしないですからぁ!ちょっとだけっ!先っちょだけぇ!」

「先っちょ!?はぁ!?てかまひろさんっ、そのっ!?当たってます!一旦落ち着いてくださいっ!!」

「おねがいですぅ!ゆ〜まさ〜ん!!」


腕を抜こうとすればするほど、腕に絡みついて離さないまひろさんのおっきなおっぱい。懇願するような表情付き。

過去に付き合った彼女とは比べ物にならないその魅惑の感触に、俺の理性は急激に削られてゆく。というか、ゼロに近い。いや嘘、ゼロ。

こんなの耐えられるはずもなく俺は撃沈した。


「わかりました!!わかりましたからっ!!話聞きますから一旦離れてくださいっ!」


薄汚れたアパートの外廊下に声が響いた途端、俺の腕がふっと軽くなった。どうやら離してくれたらしい。


「………………うふふっ♡本当ですか?♡」

「ただし話を聞くだけですからね!?そのっ……即、俺を殺すとかはだめですよ!?」

「もちろんです♪即ヤるのはムードに欠けますから♡」

「え?……なに?ムード?」

「何でもありませんっ♪こっちの話です♪」

「本当に話を聞くだけですよ!?その後はすぐに帰りますからね!?」

「大丈夫です!それだけでも十分です♪」


先ほどの必死な声とは打って変わって可愛い声と、ニッコニコの笑顔が眼前に咲く。

それを見てつい心が緩んでしまう俺がいた。


いかんいかん、相手は殺し屋だぞ……自称だけど。


これでも俺は文武両道の道を歩んできて、護身術だって一応学んでいる。今だけは、スパルタな家庭に育ったことを感謝したい。

ふっと息をついて頭を冷やし理性を引き戻すと、身体が覚えている感覚を思い出して脳内でシミュレーションを開始する。


急に刃物を出されたら——もし銃を持っていたら?ほかにどんな状況があり得る?逃げる場合はベランダから飛び降りても大丈夫か……?——


つい考え込んでしまっていた俺の袖が、不意にくいっと引かれた。


「ゆ〜まさんっ♪なにぼーっとしてるんですか?早くわたくしのお部屋に行きましょ?こんな寒い所にいたら風邪引いちゃいますよ?あったか〜い所でまったりしましょ♪」

「ああっ、すいません……そうですね」

「ほらほら〜♡お隣なんですから、ご遠慮なくっ♪」

「ちょっとまひろさん!?わかりましたからそんな引っ張らないでください!」

「ふふっ♡はやくはやく〜♡」


俺の袖を引っ張ってゆくまひろさんは、どこか無邪気で楽しそうだ。

その笑顔に引っ張られるみたいに俺は隣の部屋、204号室へ足を進めてゆく。


……本当にこの人、これで殺し屋なのか?


可愛い笑顔にさらさらの黒髪が揺れ、時折覗くピンクの差し色が妙に眩しい。

そんな彼女の横顔を見ていると警戒心がほどけそうになる。

だからこそ、俺は薄れていくそれを必死に塗り直して、この後のことに備えようと身構えた——



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奥付

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