人生ドン底の俺が、隣に引っ越してきた(自称)殺し屋のふわふわ系爆乳おねぇさんに腹上死させると言われた話

ファッション@スカリー

第1話 爆乳おねぇさん、襲来——

大学の一年目が終わり、長い春休みが訪れた2月。

俺は果てしなく続く不幸に絶望していた——


ことの始まりは父の不貞からだ。

俺の父・政辰まさときは、巨大商社【鳳城コーポレーション】を一代で築いた経営者だ。いや、だった……。


ところが半年前、秘書との不倫が発覚しスキャンダル化。金銭面の不祥事も露呈し、辞任に追い込まれた上、責任を全て負わされ……最終的に父は自殺という道を選んだ。そして、父の死を受け入れられなかった母は心を病み、そのすぐ後に父を追った。


結果、俺の手元に残ったのは僅かな遺産と督促状の山。


不幸はさらに続く。


死に物狂いで努力し、鳳城家の後継ぎとして恥ずかしくない大学に合格したにもかかわらず、なぜか学長に呼び出され、退学か転学かを秘密裏に迫られた俺は、苦肉の策で別の大学へ転学を選択。

挙句の果てに彼女からは振られ、父の報道を受けて友人関係も崩壊。


今では御曹司だった立場は失われ、ボロアパートで一人暮らし。バイトで学費と生活費を賄う苦学生生活。


その渦中に身を置いているのが俺——鳳城悠真ほうじょうゆうまだ。


「はぁぁぁぁ……やっと帰宅……」


今日はコンビニバイトの夜勤明けの帰り。

部屋へ続く玄関をくぐり短い廊下進むと、視界に収まるのは狭い和室のワンルーム。

中央に置かれたちゃぶ台とその上に1台のPC、隅には畳まれた布団。掃除もろくにできていなくて、畳の目に細かな埃が薄く残っている。


「…………ただいま……」


誰に向けたわけでもない声が、虚しく溶けてゆく。

豪華なものが欲しいわけでも、贅沢がしたいわけでもない。

でも、明日食べるものの心配をする日が来るなんて、流石に想像すらしていなかった。


ここまで不幸が続くと、人間どうしてもネガティブになる。それこそ生きている意味さえ考える日さえも……。


「なに考えてんだ俺は!……ダメダメ、気をしっかり持て!」


このまま沈んだら終わる。

そんな焦りだけが胸の下で鈍く鳴り、自分を振るい立たせたくてわざと大きな声を出した、その時——


————————ピンポーン♪


室内に響くインターホンの音がさっきまでの静けさをあっさり塗り替えた。

次いで聞こえたのは、どこか間延びした可愛らしい女性の声。


「あの〜、ごめんくださ〜い……どなたかいらっしゃいますか〜?」


「えっ?誰っ……?」


家賃は滞納してないし、父関係の督促はもう片付けた。そもそも今日は誰ともアポなんて入れてないはずだ……。

俺は荷物を床に置くと、息を殺して玄関へ向かった。


「何かの営業か勧誘か?さっさと断って仮眠取ろう……」


玄関のドアの前で一度呼吸を整え魚眼レンズを覗くと、そこに映っていたのは営業なんて単語と噛み合わない美女の顔だった。


レンズ越しに歪んでいるはずなのに、目を奪われるほど整っている可愛い顔つき。黒髪パッツンのボブヘアーに縁取られた、大きなまん丸の人懐っこい瞳がこちらを探すようにキョロキョロとしている。


「ごめんくださ〜い……どなたかいらっしゃいませんか〜?」



————————コンコンコンッ……


続くノックの音。


「……いや、誰?すっごい綺麗な人だけど……?」


心の中の声がそのまま口をついて出る。こんな女性は知らない。


どうしよう、居留守を使うか?でも営業とかでもなさそうだし……なんか困っている感じもするしなぁ……。


男は美人に弱い、それは宿命だ。かつて父さんがそうだったように。

結果、俺は興味に負けてしまった。


ロックを外し、冷たいドアノブを引いた瞬間、外の冷えと一緒に流れ込んできたどこか清楚で甘い匂いがほんのり玄関を満たす。


「こんばんわ……あの……どういったご要件でぇ……!?…………でっかぁぁ


眼前に姿を表した女性を見て、不謹慎にもつい声を失ってしまった。


ふんわり可愛いアイドルのように整った癒し系の顔立ちに茶色の瞳。

ツヤツヤなボブヘアーは、近くで見ると内側にはピンクのインナーカラーが差し込まれていて無意識に視線を誘ってくる。


が、俺の声を奪ったのはそこではない……そのご尊顔から視線を下げなくてもわかってしまうが下にあるのだ。


そう、世の中の男が大好きなアレ……巨乳……いやである。


彼女は冬だというのに薄手のニット1枚だけを着ており、それが華奢な身体のラインを拾って、胸元の布だけがまるでメロンが入ってるかのようにパンパンに張っている。


しかも胸元はざっくり開いており、チラリと覗く白い肌に谷間の影がくっきり落ちていて、俺は目線が吸い寄せられるのを必死にこらえていた。


彼女はそんな俺の動揺なんて知らない顔で、ぱあっと無邪気に表情を輝かせる。


「ああっ!よかった、いらしたのですねっ♪」

「は……はぁ……」

「すいません、急に訪問してしまいまして……わたくし、隣の204号室に越してきた佐々木というものなのですが……」

「隣に……?ああっ……」


彼女——佐々木と名乗ったその人は、両手に抱えたものを落とさないように持ち直して丁寧に頭を下げてきた。


そういえば昨日バイトに行くとき、隣に引越し業者が入っていた気が……ってことは、この綺麗な人は俺のお隣さんなのか……。


「なので、一度ご挨拶も兼ねて粗品をお持ちしてまして……良ければ受け取ってくれませんか?」

「あっ、なんかすいません。気を使わせてしまって……」


佐々木さんは両手で抱えていた包みを丁寧に差し出してくる。

厚手の和紙で包まれたそれは表面の光沢が上品に光を返し、手書きのような熨斗のしが高級感を更に引き立てていて、このボロアパートの廊下で見るには場違いなくらいだ。


「こんな立派なもの、頂いてしまっていいんですか?」

「ええ、もちろんですっ♪お気持ちですが……」

「じゃ、じゃあお言葉に甘えて……ありがとうございます」


断るのも悪いと思った俺は、素直にそれを受け取りながら考える。

……バイト増やしてお返し買わないとなぁ。

そんな思考を巡らせながらも、自己紹介をしていない事に気づいた俺は慌てて口を動かした。


「あっ、えっと……すいません、自己紹介が遅れました。俺はここに住んでる鳳城っていいます……何かあれば……」


そこまで言うと、佐々木さんの顔がぱぁっと明るくなった。

花が開くみたいにふわっと笑みが広がり、俺の言葉を途中で切るように弾む勢いで割り込んでくる。


「ああっ!よかったぁ……やはり鳳城悠真さん、ですよね?」

「えっ……?なんで俺の名前を……?」


背筋にひやりとしたものが走る。

これでも父の騒動のせいで一部の人には名前が割れてしまっているわけで……目の前のこの人がどんな経路で俺を知ったのか。それが急に怖くなったのだ。


佐々木さんは、そんな俺の緊張に気づいていないのか、変わらず柔らかな表情で俺を見つめている。


「あのぉ、悠真さん……?」

「……………………………………は……い……」

「改めまして、わたくし佐々木まひろと申します♪まひろって呼んでください♡」


ろくに声が出せない俺を前に、佐々木さん、いや、まひろさんはゆっくりと頭を下げる。

動作が丁寧すぎて逆に怖い。そしてなにより、前かがみになったから谷間がすっごい。

数秒後、彼女が顔を上げると——そこには、眩しいくらい笑顔があった。


「わたくし、殺し屋でして……とある事情により、鳳城さんを“殺し”に参りました♡ふつつか者ですが、これからよろしくお願いいたしますっ♡」


この時、混乱する頭の片隅で俺は思った……最近の殺し屋って自己紹介から入るの?と——



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奥付

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