最終話 島を去る日
――それでも世界は続く
朝だった。
戦いの後に来る朝にしては、
やけに普通だった。
潮の匂い。
濡れた砂。
昨日の焚き火の残り。
――誰も、死んでいない朝。
船は、
向こうから来た。
神のものじゃない。
奇跡でもない。
ただの、
無人島回収用の船。
予定表に載っていた、
“現実側”の処理。
〈設計者〉が言う。
「……ちゃんと、
来るもんだな」
〈王〉は、
もう王じゃない。
剣も、
命令もない。
それでも、
皆の前に立っていた。
癖だ。
〈共感者〉は、
一歩、後ろにいる。
全員を
見ている。
守るでも、
従うでもなく。
選ぶ側の目。
〈調停者〉は、
頬にまだ痣がある。
だが、
笑っていた。
「最後に殴られたのが
俺で良かったよ」
誰も、
否定しなかった。
船が、
浜に着く。
係員が言う。
「全員、
乗れます」
一瞬、
空気が止まる。
〈王〉が、
振り返る。
「……行くか」
誰も、
すぐには動かない。
〈設計者〉が言う。
「戻ったらさ」
「俺たち、
“普通のMBTI”だろ」
「診断結果」
「ネットで笑われるやつ」
〈共感者〉が、
小さく頷く。
「……それでいい」
〈王〉は、
少し考えてから言う。
「俺は」
「もう、
王にならない」
それは、
宣言じゃなかった。
誓いでもない。
ただの、
決断。
〈設計者〉が、
皮肉っぽく笑う。
「じゃあ、
俺も設計しない」
「人の人生」
〈調停者〉が、
両手を広げる。
「殴られ役、
引退だな」
〈共感者〉は、
最後に言う。
「帰っても」
「また、
選択を迫られる」
「正しさも」
「秩序も」
「優しさも」
「全部、
武器になる」
一呼吸。
「でも」
「王がいなくても、
決めていい」
その言葉で、
全員が動いた。
船に、
乗る。
振り返る者は、
少ない。
島は、
何も言わない。
ただ、
焚き火の跡だけが残る。
船が、
離れる。
〈観測者〉の最終記録。
実験終了後
勝者なし
だが
選択は継続
海の向こう。
社会が、
待っている。
また、
MBTIは聞かれるだろう。
「君、何タイプ?」
その時。
彼らは、
こう答えるかもしれない。
「……ただの、人間」
そして、
物語は終わる。
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