第24話 〈共感者〉が「王なき決断」を初めて下す

――誰の名も呼ばれなかった夜


朝だった。


島は、

静かすぎるほど静かだった。


命令がない朝は、

こんなにも音が少ない。


〈共感者〉は、

焚き火の前に座っていた。


誰かの代表でもない。

司令官でもない。


ただ、

そこにいる。


問題は、

単純だった。


水が足りない。


昨日までなら、

王に報告が行った。


判断が下り、

人が動き、

配置が決まった。


今日は、

誰も動かない。


沈黙が、

少しずつ

不安に変わる。


誰かが、

言いかけてやめる。


「……どうする?」

その視線が、

〈共感者〉に集まる。


彼女は、

一瞬だけ

手を止める。


――違う。

――私は、

  決める人じゃない。


でも。

「水場、

 北と東、

 どっちが近い?」

それだけ、

聞いた。


答えは、

ばらばらだった。


距離。

安全。

見通し。


意見が、

割れる。

〈共感者〉は、

まとめない。


「じゃあ」

静かに言う。


「北に行きたい人は、

 北へ」

「東に行きたい人は、

 東へ」


一瞬、

空気が止まる。

「……それだけ?」


〈共感者〉は、

頷く。

「責任、

 私が取らないから」


その言葉が、

この島で

一番重かった。


誰かが、

笑う。


「変なの」

でも、

動き始める。


北へ三人。

東へ五人。


残りは、

焚き火に残る。


誰も、

命令されていない。


それでも、

水は運ばれてくる。


失敗も、

起きる。


北組の一人が

足を切る。


責める声は、

出ない。

「自分で

 選んだしな」


その言葉に、

〈共感者〉は

胸が詰まる。


――これだ。

王がいない決断は、

遅い。

効率も悪い。

怪我も出る。


でも。

誰も、

 裏切られた顔をしていない。


〈観測者〉の記録。

初の

王なき意思決定

統率:なし

責任集中:なし

結果:成功(低効率)


夕方。


水が行き渡る。

量は、

十分じゃない。


でも、

足りている。


〈共感者〉は、

焚き火を見つめる。


誰も、

彼女を称えない。


それでいい。

〈設計者〉が、

遠くで見ている。


「……革命じゃないな」

〈共感者〉は、

小さく笑う。


「生活です」

その一言で、

〈設計者〉は

何も言えなくなる。


夜。


王は、

遠くから

その焚き火を見る。


誰も、

彼を呼ばない。


でも、

崩れていない。


〈王〉は、

初めて

安堵する。


「……負けて、

 よかったな」


神は、

その光景を

黙って見ていた。


最強を決める戦いは、

もう

別の形になっている。

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