第23話 王が自分の敗北条件に気づく

――王は、選ばれなくなった時に終わる


〈王〉は、

島を見ていた。


高台から。

支配のためではない。

把握のためでもない。

確認だった。


焚き火の数は、

変わっていない。


人数も、

大きく動いていない。


武器も、

増えていない。


それなのに、

違和感だけが

増えていた。


〈王〉は、

気づく。

命令が減っている。


誰も、

彼の判断を

待っていない。


それでいて、

混乱も起きていない。


〈王〉は、

静かに言う。

「……なるほど」


敗北条件は、

殺されることじゃない。

奪われることでもない。

“選択肢”から外れること。


〈王〉は、

初めて

自分の力の正体を

言語化する。


自分は、

“最適解を出す存在”だった。


危機の時、

人は集まる。


判断が必要な時、

王は必要だ。


だが。

今、

この島に

“判断の強制”はない。


人々は、

選んでいる。


誰に従うか、

ではない。

どう生きるかを。


〈王〉は、

思い出す。


〈共感者〉の言葉。


選択を

あれは、

反逆じゃない。


免疫だった。

「……俺は、

 正しすぎたな」


正しさは、

長く続くと

人を育ててしまう。


育った人間は、

もう

王を必要としない。


〈王〉は、

焚き火の一つを見る。


誰の派閥でもない火。


話し合いが、

行われている。


命令も、

代表もいない。


「……あれが、

 俺の負けか」

誰も、

俺を倒していない。


俺は、

倒されていない。


俺が、

 選ばれていない。


〈観測者〉の記録。

王、

自己敗北条件を認識

状態:崩壊ではなく受容

秩序:自律化フェーズへ移行


〈王〉は、

剣に手をかけない。


代わりに、

腰を下ろす。

「まだ、

 出来ることはある」

それは、

延命ではない。


譲るための仕事だ。


〈王〉は、

初めて

“次の王”を

考えなかった。


代わりに、

考える。


**“王が要らなくなる形”**を。


夜。


〈王〉は、

焚き火に

近づかない。


遠くから、

見守る。


誰も、

彼に気づかない。


それが、

敗北だった。


そして、

救いでもあった。


神は、

その姿を見て

笑った。


「やっと、

 人間だ」

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