第20話 〈調停者〉が最初に殴られる

――守られないという証拠


殴られた音は、

思ったより軽かった。


乾いた音。

怒りも、

叫びもない。


ただ、

確かに当たった。


〈調停者〉は、

一瞬、何が起きたのか

理解できなかった。


視界が揺れる。


口の中に、

鉄の味。


「あ……」

声にならない。

殴ったのは、

若い王派の一人だった。


命令は、

出ていない。


周囲も、

止めない。


沈黙。


それが、

すべてだった。


〈調停者〉は、

膝をつく。

殴られた理由は、

わかっている。


守られていないから。

「……なんで」

誰かが、

小さく言う。


「なんで、

 この人?」

答えは、

簡単だ。


象徴が、

外に出たから。


〈調停者〉は、

立ち上がろうとして、

また殴られる。


今度は、

腹。

息が、

抜ける。


「やめろよ」

誰かが言う。


でも、

近づかない。

〈調停者〉は、

笑ってしまった。


――ああ。

――これだ。

これが、

 守られないってことか。


〈共感者〉は、

遠くで見ていた。


足が、

動かない。

〈設計者〉の言葉が、

頭をよぎる。


外から“守る理由”を

無くせばいい

今、

その理由が

殴られている。


〈調停者〉は、

血を吐きながら言う。


「……王は」

声が、

かすれる。


「王は、

 正しいよ」

その言葉で、

場が凍る。


殴った男の手が、

止まる。


〈調停者〉は、

続ける。

「正しいから、

 守られないんだ」


誰も、

反論できない。


〈観測者〉の記録。

王派内部暴力:

初の“象徴”対象

命令:なし

抑止:なし

結果:

保護の例外が

可視化される


〈王〉の元に、

報告が届く。

〈王〉は、

立ち上がらない。


「……死んだか?」

「いえ」

「なら、

 いい」

その一言が、

島を分けた。


〈共感者〉の胸に、

何かが落ちる。

音はしない。


〈調停者〉は、

地面に倒れながら、

空を見る。

「……これで、

 よかったんだよな」


〈設計者〉は、

遠くで目を閉じる。

檻は、

 壊れた。


だが、

代償は

取り消せない。


夜。


非王派の焚き火は、

初めて

王派より大きくなった。


誰も、

勝ったとは言わない。

ただ、

知ってしまった。


守られない者は、

 選ばれなかったのではない。

 選ばせなかったのだ。

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