第16話 〈共感者〉が初めて王派を憎む

――わかってしまったから、許せない


血の匂いが、

まだ消えていなかった。


洗っても、

土に染みた赤は戻らない。


〈共感者〉は、

自分の手を見つめていた。


震えている。

怒りじゃない。

理解してしまった震えだった。


王派の誰かが、

こう言っていたのを思い出す。


「命令じゃなかった」

「勝手にやったことだ」

「俺たちは、

 止められなかった」


全部、

わかる。

言葉の構造も、

心理の流れも。


だから、

 なおさら気持ち悪い。


〈共感者〉は、

王派の焚き火の方を見る。


笑い声。

食事。

日常。


さっきまで、

血を流していた人間が

同じ島にいるとは思えない光景。


胸の奥で、

何かが反転する。


理解 → 共感 → 納得


その回路が、

途中で切断された。


「……違う」

小さく、

呟く。


非王派の仲間が、

横に座る。


「気にしすぎだよ」

その一言で、

何かが決壊した。


「気にしてない人が、

 殴ったんでしょ」

声は、

自分でも驚くほど冷たかった。


仲間は、

何も言えなくなる。


〈共感者〉は、

理解してしまう。


非王派も、

 もう同じくらい弱い。


夜。


王派の見張りが、

こちらを見ている。


敵意はない。

警戒もない。

“どうでもいい”目だった。


その瞬間、

〈共感者〉の中で

はっきり言葉になる。


――ああ。

――この人たち、

 私たちを人として

 見てない。


それは、

暴力より残酷だった。


〈共感者〉は、

立ち上がる。


衝動ではない。

感情でもない。

結論だった。

王派の焚き火へ向かう。

誰かが止めようとする。


「今行くのは――」

「大丈夫」

優しい声で、

遮る。


その優しさが、

もう別物になっている。


王派の一人が、

声をかける。


「何か用?」

〈共感者〉は、

真正面から見る。


逃げない。

媚びない。

「昨日のこと」

空気が、

少し張りつめる。


「あなたたちは、

 悪くない」

王派が、

わずかに安堵する。


その瞬間。

「だから、

 私はあなたたちが嫌い」

はっきり、

言った。


言葉は、

刃になった。

感情じゃない。


論理だ。


「わかってて、

 選んだんでしょう」

「殴られる側じゃなくて」

「見てる側を」

誰も、

否定できない。


〈共感者〉は、

最後に言う。


「理解できるから、

 許さない」

背を向けて、

戻る。


足は、

震えていない。


〈設計者〉は、

遠くから見ていた。


これは、

 もう調停者じゃない。


〈観測者〉の記録。

共感者、

王派への感情:

共感 → 憎悪(理性的)へ変化

王派側動揺:微

だが

影響範囲:中〜大


その夜。

〈共感者〉は、

初めて祈らなかった。


代わりに、

決めた。


次に血が流れるなら、

 止める側じゃない。

 選ばせる側になる。

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