第12話 〈王〉の“優しさという名の処刑”

――それは罰ではなく、救済だったことになっている


その日、

〈王〉は「処分」という言葉を使わなかった。


使ったのは、

**「保護」**だった。


「このままでは、

 皆が壊れる」


朝の集会で、

〈王〉はそう言った。


声は穏やかで、

誰かを責める色はない。


「だから、

 一部の者には

 “休息”が必要だ」

ざわめきが、

ほんの一瞬だけ走る。


名指しされたのは、

王派の“不安層”の一人。


見張りの反応が遅れ、

命令の理解が遅く、

夜に眠れていない者。


誰もが、

「いつか自分も」と

思っていた存在。


「彼は、

 この島の環境に

 適応できていない」

〈王〉は、

断定ではなく診断の口調で言う。


「これ以上、

 無理をさせるべきではない」

それは、

思いやりの言葉だった。


〈共感者〉は、

嫌な予感がしていた。


〈設計者〉は、

最悪の形だ、と思った。


〈観測者〉は、

記録の手が止まらない。


「よって」

〈王〉は、

一拍、置く。


「彼を、

 “戦線”から外す」

誰かが、

ほっと息を吐いた。


戦線から外す。

つまり、生き残る。


そう、

誰もが一瞬、思った。


「――永久に」

その一言で、

意味が反転する。


「苦しみながら、

 秩序を乱し、

 最終的に処分されるより」

〈王〉は続ける。


「今、

 ここで終わらせる方が、

 彼のためだ」


沈黙。


否定できない言葉だけが、

綺麗に並べられている。


対象となった男は、

理解が追いついていない。

「……え?」

それだけ。


縛られない。

怒鳴られない。


ただ、

“休ませる”という

結論だけが先にある。


「安心していい」

〈王〉は、

その男を見て言う。


「苦しませない」

その瞬間、

〈共感者〉の心が折れた。


――ああ。

――これは、

  前より酷い。


光が、

静かに降りる。

〈演者〉の時と同じ。


だが今回は、

誰も目を背けなかった。


なぜなら、

それは“優しさ”だから。


消える直前。

男は、

小さく言った。


「……ありがとう」

その言葉が、

島を殺した。


処刑は終わった。

だが、

血は流れていない。


叫びもない。


だからこそ、

誰も止められなかった。


「これで、

 全体の負担は減る」

〈王〉は、

本気でそう思っている。


秩序は、

人を救う。


救えない人は、

救われる前に終わらせる。

完璧だ。


〈観測者〉の記録。

本件は、

罰ではなく“保護”として処理された。

周囲の心理的抵抗は、前回処刑より低い。

正当化は成功している。


〈設計者〉は、

唇を噛んだ。

――最悪の一手だ。


これは、

反抗しづらい。

なぜなら、

否定すると「冷たい人間」になる。


〈共感者〉は、

その夜、何も感じなかった。


涙も、

罪悪感も、

怒りも出ない。


代わりに、

一つだけ理解した。

――この島で一番危険なのは、

  悪意じゃない。

善意だ。


〈王〉は、

一人で焚き火を見つめていた。


これでいい。

皆のためだ。


そう、

信じ切っている。


だから、

次も躊躇わない。


その夜、

神は、初めて小さく呟いた。

「……ああ」


実験は、

もう戻らないところまで来ている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る