第10話 〈設計者〉が王派内部の“不安層”を切り崩す

――裏切りは、命令ではなく質問から始まる


王派の中に、

「不安層」と呼べる者たちがいる。


王を信じていないわけじゃない。


だが、

王の決断が自分に向く可能性を、

想像してしまった者たちだ。


〈設計者〉は、

彼らを“仲間”とは呼ばない。

材料だ。


〈設計者〉は、

昼間には動かない。


動くのは、

命令が一段落し、

誰もが「今日は何も起きない」と

油断した時間帯。


安心は、

最も切り崩しやすい。


最初の接触は、

雑談だった。


「最近、寝れてる?」

それだけ。


相手は一瞬、

どう答えるべきか迷う。


王派としては、

「問題ありません」が正解だ。


だが、

夜は嘘が下手になる。


「……あんまり」

それで、十分。


「処刑の後、

 皆そうだ」

〈設計者〉は、

自分も含める言い方をする。


「正しいことをしたのに、

 体が追いつかない」

これは批判ではない。


共感のふりをした観測だ。


相手が、

小さく息を吐く。


〈設計者〉は、

そこで止める。


それ以上は、

“誘導”になる。


次の日。


〈設計者〉は、

別の不安層に、別の角度から話す。


「王の判断、

 最近ちょっと速くない?」

否定できる問い。


だからこそ、

答えてしまう。


「……速いな」

それだけでいい。


〈設計者〉は、

絶対に王を否定しない。


否定した瞬間、

これは反逆になる。


代わりに、

疑問だけを置いていく。


「もしさ」

声を落とす。


「次に“処分”が出るとしたら、

 基準って何だと思う?」

相手は黙る。


答えが出ない問いほど、

人を壊す。


夜。


不安層は、

それぞれ別々の場所で、

同じことを考える。


――基準って、何だ?


〈設計者〉は、

誰にも答えを教えない。


教えた瞬間、

彼らは思考を止める。


必要なのは、

考え続ける不安だ。


王派内部で、

小さな変化が起きる。


命令に対して、

「はい」

の前に、

一瞬の間が生まれる。


その間は、

王から見ればノイズ。

だが、

崩壊はノイズから始まる。


〈王〉は、

その変化に気づいている。


だが、

理由が分からない。


「……」

王は、

不安層を見渡す。


彼らは、

何もしていない。


何も、言っていない。


だから、

処刑できない。


〈設計者〉は、

遠くからそれを見る。


完璧だ。


命令を破らせていない。

秩序も、壊していない。


ただ――

秩序が、自壊を始めただけだ。


〈観測者〉の記録。

王派内における反応遅延、平均0.8秒。

会話中の沈黙、前日比36%増。

明確な反抗なし。

しかし、心理的距離は拡大。


〈設計者〉は、

次の段階を考える。


不安は、

いずれ行動になる。


行動に変わる瞬間、

必ず犠牲が必要だ。


そして――


その犠牲が、

誰になるかも。

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