第9話 王派内部で最初の亀裂が走る
――処刑は、命令する側も削っていた
朝は、平等に来る。
昨日、誰が消えたかに関係なく、
太陽は島を照らす。
それが、逆に残酷だった。
〈王〉は、焚き火の前に立っていた。
「今日から、
夜間の単独行動を禁止する」
反論は出ない。
命令が増えるほど、
秩序は“正しいもの”に見える。
誰もが、
そう信じたがっている。
「交代制で見張りを置く」
「資源の管理は、
王派が一括で行う」
「違反者は――」
〈王〉は、言葉を区切った。
「――処分する」
その瞬間、
空気が、ほんのわずかに沈んだ。
昨日までは、
“例外的な判断”だった。
今日は、
制度になった。
王派の中に、
小さな違和感が生まれる。
それは反抗ではない。
もっと、厄介なものだ。
自己保身。
「……昨日の処刑さ」
見張り当番を決める時、
一人が小声で言った。
「必要だったと思う?」
周囲が、一瞬、固まる。
問いかけた本人も、
答えを求めていない。
ただ、
確認したかっただけだ。
別の者が言う。
「仕方なかっただろ。
秩序が崩れかけてた」
正論だ。
だが、その声は、
どこか弱い。
「でもさ」
さらに別の者。
「次は、
俺たちが“乱した”って
言われない?」
誰も否定できなかった。
〈王〉は、気づいていた。
王派の視線が、
以前と違う。
尊敬でも、信頼でもない。
測定だ。
――この人は、
どこまでやる?
夜。
〈王〉は、一人になった。
誰もいない場所で、
ようやく肩の力が抜ける。
手を見る。
震えている。
「……」
それを、
自分で押さえつける。
迷いではない。
反動だ。
正しいことをした後に出る、
当然の副作用。
そう、
言い聞かせる。
王派の一人が、
〈王〉に近づいた。
「……少し、話せる?」
周囲を警戒しながらの声。
〈王〉は頷く。
「正直に言う」
その者は言った。
「俺は、
あれを見て、
少し怖くなった」
「……」
「王が、じゃない。
“処刑”そのものが」
〈王〉は、否定しない。
否定できない。
「でもさ」
その者は、言葉を探す。
「じゃあ、
他にどうすればよかった?」
沈黙。
答えは、
用意されていない。
〈王〉は、初めて、
小さく言った。
「……完璧じゃない」
その瞬間。
王派の中で、
何かが崩れた。
ほんの一部。
だが、確実に。
完璧じゃない王。
それは――
王ではない。
その夜、
王派は二つに分かれ始める。
王の決定を守りたい者
王の決定から身を守りたい者
どちらも、
王派だ。
だからこそ、
亀裂は表に出ない。
静かに、深く、進行する。
〈設計者〉は、遠くからそれを見ていた。
〈観測者〉の記録と、
自分の仮説が一致していく。
――処刑は、
命令する側の人間性も削る。
削れた分だけ、
隙ができる。
〈王〉は、まだ王だった。
だが、
王派は、もう一枚岩ではない。
それを知っているのは、
ごく一部。
そして、
その一部が、
戦争を始める。
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