第8話 〈設計者〉が最初の協力者を選ぶ

――その選択は、優しさではなかった


夜は、音を増幅させる。


焚き火の爆ぜる音。


誰かの寝返り。


遠くで波が砕ける規則正しいリズム。


〈設計者〉は、眠っていなかった。


正確には、

眠るという選択肢を捨てていた。


考える時間は、夜にしかない。


昼間は、〈王〉の目がある。


最初に確認したのは、数字だった。


生存者の人数。


能力の傾向。


王派の人数と配置。


そして――

処刑を肯定した人数。


肯定した者は、使えない。


否定したが、声を上げなかった者。


否定すらできなかった者。


その中で、

一人だけ、分類不能な存在がいた。


〈観測者〉。


反抗しない。

服従もしない。


感情を記録しないふりをして、

記録されていることだけが異常な存在。


〈設計者〉は、確信していた。

――この人間は、裏切らない。

――だが、真実を捨てない。


裏切らないというのは、

王にも、設計者にも、という意味だ。


「起きてる?」

〈設計者〉は、焚き火の影から声をかけた。


小さく、確認するように。

〈観測者〉は、少し間を置いて答えた。


「……起きてる」

声に、警戒が混じっている。


だが、拒絶ではない。


〈設計者〉は、隣に座らなかった。


距離を保ったまま、地面に腰を下ろす。


「君に頼みがある」

即座に本題。

「拒否していい。

 拒否しても、君を敵だとは思わない」

〈観測者〉は、焚き火を見たまま言った。


「それは、

 拒否したら、後で殺すって意味?」

「違う」

〈設計者〉は即答した。


「拒否したら、

 君は“何もしない人間”として生き残る」

その言葉は、

優しさではなかった。


分類だった。


〈観測者〉は、しばらく黙っていた。

「……頼みって?」

「記録してほしい」

〈設計者〉は言う。


「王の決定。

 派閥の動き。

 誰が、どこで、何を黙ったか」

「それは、今もやってる」

「違う」

〈設計者〉は、視線を上げる。


「“後で使うために”記録してほしい」

その意味は、

言葉にしなくても伝わった。


〈観測者〉の喉が、わずかに鳴る。

「……それは」

「王を倒すためだ」

静かな声だった。


「成功すれば、秩序は壊れる。

 失敗すれば、

 関わった人間から消える」

〈設計者〉は、

一切、希望を語らなかった。


「どうして、私なんだ」

〈観測者〉の問いは、

感情ではなく、条件確認だった。


〈設計者〉は答える。

「君は、

 “正しい側”に立たない」

「……」

「でも、

 “間違いを記録する”」

焚き火が、少し強く爆ぜた。


「考える時間は?」

「今」

〈設計者〉は言った。


「夜が明けたら、

 王の秩序はもう一段階強くなる」

沈黙。

波の音。


〈観測者〉は、深く息を吸った。

「……私は」

言葉を選んでいる。


「王を倒したいとは、思っていない」

「知ってる」

「でも」

〈観測者〉は、視線を〈設計者〉に向けた。


「〈演者〉が、

 “なかったこと”になるのは、違う」

その瞬間、

〈設計者〉は理解した。


――ああ、これでいい。

「いいよ」

〈観測者〉は言った。


「協力する。

 ただし、私は嘘を書かない」

「それでいい」

〈設計者〉は頷く。


「嘘は、

 設計者の仕事だ」

二人は、握手をしなかった。


誓いも、約束もない。

ただ、

同じ破滅を見据えただけだ。


夜は、まだ深い。

そして、

王は何も知らない。

――まだは。

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