第7話 〈演者〉が本当に消える


――王の最初の“処刑”


最初に気づいたのは、音が消えたことだった。

無人島は、基本うるさい。


風が鳴り、波が砕け、誰かの能力が発動すれば空気が歪む。


誰かが喋っていなくても、世界は勝手に騒がしい。


それなのにその時だけ、

〈演者〉の声が、ぴたりと途切れた。

「……あれ?」

誰かが言った。


それが誰だったのか、もう思い出せない。

〈王〉は高台に立っていた。


昨日まで、そこは「話し合いの場所」だったはずの岩場。

今は違う。


誰もが、下から見上げる形になっている。

〈演者〉は、前に出されていた。

縛られてはいない。


逃げようと思えば逃げられた。


だからこそ、この光景は残酷だった。


「ねえねえ」

〈演者〉は、いつもの調子で笑った。

軽く、冗談みたいに、空気を壊すように。


「これさ、演出だよね?

 神様のサプライズ的なやつ。

 ここで一回ビビらせて、はい解散、みたいな」

誰も笑わなかった。

〈王〉は答えない。


その沈黙が、

**「これは芝居じゃない」**と告げていた。

「秩序を乱した」

〈王〉が言った。

感情のない声だった。


怒っているわけでも、楽しんでいるわけでもない。


ただ、宣告。

「情報を攪乱し、

 虚偽を混ぜ、

 派閥間の不信を煽った」


〈演者〉は首を傾げた。

「え、盛り上げただけじゃん。

 みんなピリピリしてたしさ」


〈設計者〉は、視線を逸らしていた。

〈共感者〉は、歯を食いしばっていた。

〈観測者〉は、何も言わず、ただ見ていた。

――誰も、庇わなかった。


それが答えだった。


「処刑とする」

その言葉が落ちた瞬間、

空気が“決定”に変わった。


〈演者〉は、ようやく異変を理解した。


「……あ、待って。

 ねえ、待ってって。

 ちょっとやりすぎじゃない?」

声が、少しだけ揺れた。


「俺さ、ただ――

 みんながさ、

 この島で壊れないように」

そこまで言って、言葉が詰まる。


それは、本音だった。


ふざけて、笑って、場を乱して。


そうしないと、

この戦いが“本物”になってしまう気がしていた。


でも――

「秩序のためだ」

〈王〉は、それを切り捨てた。


暴力ではない。


能力でもない。


決定権という名の刃。


光が、〈演者〉を包んだ。


派手な演出はない。


叫びも、断末魔もない。


ただ、

存在だけが、削除される。


声が消え、

影が消え、

そこに「いなかったこと」になる。


次の瞬間、

そこには空白だけが残っていた。


誰かが、膝をついた。


誰かが、吐いた。


誰かが、心の中で思った。


――あ、これ、もう戻れないやつだ。

〈王〉は、ゆっくりと視線を巡らせる。


「これが、ルールだ」

その言葉は、

誰かを守るためのものではなかった。


逆らわないための言葉だった。


秩序は、完成した。


同時に、人は一人死んだ。


その夜。


誰も、〈演者〉の話をしなかった。


笑い声のない島で、

全員が同じことを考えていた。

次は、自分かもしれない。


そして〈設計者〉だけが、

静かに、確信していた。


――この王は、止めなければならない。

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