第6話 設計図に、王の席はなかった


 裏切りは、感情から始まらない。


 ――計算から始まる。

 それが、〈設計者〉である俺の性格だ。


 〈王〉の秩序は、完成度が高い。


 効率的で、合理的で、短期的には正しい。

 だが、

 終盤に向かう設計じゃない。


 人は、消耗する。


 恐怖は、従順を生む。


 従順は、思考を殺す。


 思考を失った集団は、

 “強い敵”が現れた瞬間に崩壊する。


 俺は、未来を何通りも走らせた。

 王が生き残るルート。


 王が裏切られるルート。


 王が独裁者になるルート。


 どれも、

 最後は同じだった。


 王は、勝てない。


 俺は、表向きは従った。


 戦略を提出し、

 見張りの配置を最適化し、

 〈王〉の秩序を補強する。


 ――皮肉なことに、

 王を倒す準備のために、

 王の支配を強くする。


 〈王〉は、俺を信頼した。


「君がいれば、負けない」

 その言葉を聞いた瞬間、

 俺は確信する。


 もう、戻れない。


 最初に外したのは、

 情報だった。

 〈影〉の存在。


 〈王〉は、

 「いないもの」として扱っている。

 それが、最大の穴だ。


 俺は、偶然を装って、

 〈生存者〉の巡回ルートを少しだけずらした。


「東の森は、今日、危険だ」

 理由は言わない。

 〈生存者〉は、聞かない。


 その夜、

 〈影〉と〈生存者〉が、

 ほんの一瞬だけ、視線を交わした。


 それでいい。


 同盟じゃない。


 “認識”で十分だ。


 次に触れたのは、

 〈導師〉の心だった。


 彼女は、

 王の秩序に、もう耐え始めている。

「正しいことをしてるはずなのに、

 誰かが泣いてる」


 その一言で、

 全てが分かる。


 俺は、答えなかった。


 ただ、否定しなかった。


 それが、〈導師〉にとっては

 裏切りの種になる。


 〈道化師〉は、

 まだ捕まらない。


 王の秩序の外を、

 楽しそうに歩いている。

 だから、放っておく。


 王を壊すのは、

 真面目な反逆者じゃない。


 最後に必要なのは、

 “笑いながら構造を壊す存在”だ。

 俺は、設計図を書き換える。


 王を中心にした円を消し、

 複数の矢印を、

 少しずつずらす。


 誰も気づかない。


 気づかせない。


 反逆は、

 始まったことを悟られた時点で失敗だ。

 夜明け前。

 〈王〉が、俺に言った。


「君は、完璧だ」

 俺は、微笑んだ。


「設計通りです」

 嘘ではない。


 ただし、

 その設計図に、

 あなたの勝利は含まれていない。


 空が、白み始める。


 次に起きるのは、

 偶然か、必然か。


 どちらでもいい。


 設計図は、もう引いてある。


 あとは、

 人間が、性格通りに動くだけだ。

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