第5話 王は、正しい顔をして命令した


 最初に集められたのは、恐怖を口にしない人間たちだった。


「無秩序は、死ぬ」

 〈王〉はそう言った。


 声は大きくない。


 でも、誰も聞き返さない。


 聞き返す必要がないくらい、正しいことを言っているからだ。


「ISFJが死んだのは、偶然じゃない。

 無計画だったからだ」


 その場にいたのは、

 〈管理官〉

 〈導師〉

 〈生存者〉

 〈突撃兵〉

 そして、俺――〈設計者〉。

 〈王〉は、全員を一度ずつ見た。


「ここからは、役割を分ける」

 “分ける”。


 その言葉が、妙に重かった。


「偵察は〈生存者〉。

 前線は〈突撃兵〉。

 資源管理は〈管理官〉。

 士気と調整は〈導師〉」

 淀みがない。


 反論の余地がない。


 誰もが、

 **“自分に合っている”**と感じてしまう。

「そして」

 〈王〉は、俺を見た。


「〈設計者〉。

 君は、全体戦略を組め」

 命令だった。


 俺は一瞬、言葉に詰まる。


 ――正しい。

 効率的だ。

 理論的だ。


 だからこそ、

 断る理由が見つからない。


「……分かった」

 その瞬間、

 俺は一つ、負けた。


「いい」

 〈王〉は満足そうに頷いた。


「これで、死ぬ確率は下がる」

 “全員が”とは言っていない。

 秩序は、すぐに成果を出した。


 拠点が決まり、

 見張りが立ち、

 食料が分配される。


 混乱は減った。


 安心感が生まれた。


 だから、

 異物が目立つようになった。

「〈火花〉は?」

 〈王〉が、淡々と聞く。


「勝手に動いてます」

 〈管理官〉が答える。


「〈道化師〉は?」

「姿を見せてません」

 〈影〉も、

 当然のようにいない。


「問題だな」

 〈王〉は言う。


「秩序に従わない存在は、

 “不確定要素”だ」


 その言葉が、

 はっきりとした境界線を引いた。

 ――内と、外。


「排除、ですか?」

 誰かが聞いた。


 〈王〉は、少しだけ考える。

「“管理”だ」

 言い換えただけ。


 意味は同じだ。


 最初の“管理”は、穏やかだった。


「夜間行動は禁止」

「単独行動は事前申告」

「拠点周辺への立ち入り制限」

 誰も反対しない。


 反対する理由が、

 “合理的に”存在しないからだ。

 だが、

 従わなかった者が出た。


 〈演者〉――ESFP。

「え? ダメだった?」

 悪気はない。


 ただ、ルールを軽く見ていただけ。

「空気、重かったからさ。

 ちょっと散歩してただけ」

 〈王〉は、彼女を見た。


 その視線は、

 怒りでも、軽蔑でもない。

 評価だ。

「規律違反だ」

 それだけ。


「今回は、警告に留める。

 次は、罰がある」

「罰?」

 〈演者〉は笑った。


「なにそれ、学校みたい」

 その瞬間、

 空気が凍った。


 笑ったのは、

 彼女だけだった。


 〈突撃兵〉が、無言で一歩前に出る。

 〈生存者〉は、既に逃げ道を見ている。

 〈導師〉は、

 何も言えなかった。


 ――これだ。

 俺は理解する。


 秩序は、

 守るために作られた瞬間から、

 罰を必要とする。

 〈王〉は言った。


「ここは戦場だ。

 空気を和ませる余裕はない」

 正しい。

 あまりにも。


「従えないなら、

 外に出ろ」

 追放。


 でも、口調は丁寧だ。


 〈演者〉は、笑顔を保ったまま、

 一歩、後退した。

「……分かった」


 その背中は、

 妙に小さく見えた。


 誰も、止めなかった。


 止められなかった。


 秩序が、

 暴力になった瞬間だった。


 夜。


 見張りの交代中、

 俺は〈王〉と二人きりになった。

「君は、正しい」

 俺は言う。


「だから、怖い」

 〈王〉は、少しだけ笑った。


「間違った統率より、

 正しい犠牲の方がマシだ」

 その言葉を、

 俺は否定できなかった。


 ――だからこそ、

 この王は、倒される。


 設計図の中で、


 俺は初めて、

 **“王が死ぬ未来”**を書き加えた。


 それが、

 この島で最初に描いた、

 明確な“殺意”だった。

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