第4話 神様は、名前を与えるのが好きだった
『あー、ちょっといい?』
不意に、空から声が落ちてきた。
もうこの演出にも慣れ始めている自分が嫌だ。
人間は順応が早すぎる。特に、逃げ場がない時ほど。
『君たちのことを見てて思ったんだけどさ』
神は、雑談でも始めるみたいな調子で言う。
『INTJだのINFPだの、呼びづらくない?
番号みたいで、全然“人”って感じしないよね』
誰も返事をしない。
返事をしたところで、どうせ止まらない。
『だからさ』
楽しそうに、神は続けた。
『今、生き残ってるメンバー全員に、ニックネームをあげることにした』
嫌な予感しかしない。
『安心して。
ちゃんと“君たちらしさ”を反映してる』
――それが一番信用ならない。
『まずは……君』
視線を感じる。
分かる。俺だ。
『INTJ。
君は――』
一拍。
『〈設計者(アーキテクト)〉』
……最悪に的確だ。
戦況を、未来を、人間関係を、
全部“設計図”として見てしまう癖。
名前を与えられた瞬間、
それが役割として固定された感覚がした。
『次。ENTP』
本人はニヤニヤしている。
『〈道化師(トリックスター)〉』
「ひどくない?」
と言いながら、否定していない。
壊す役割。
笑いながら、前提を全部ひっくり返す存在。
『ENTJは――』
神は少し考える素振りを見せて、
『〈王(キング)〉』
短い。
でも重い。
ENTJは微かに口角を上げた。
受け入れた。
それが一番怖い。
『ENFJ』
少し、声色が柔らぐ。
『〈導師(ガイド)〉』
皆をまとめ、正しい方向に導く者。
同時に、
“正しくあろうとしすぎる者”。
『ENFPは……』
神は笑う。
『〈火花(スパーク)〉』
「わ、かわいい!」
本人は喜んでいる。
だが、火花は――
燃え移るし、消える。
『INFJ』
一瞬、間が空いた。
『〈予言者(オラクル)〉』
INFJは、何も言わなかった。
言えなかった、のかもしれない。
未来を見る者。
代償を払う者。
『INFP』
空気が、少し重くなる。
『〈核(コア)〉』
中心。
信念。
壊れたら、全部が崩れる。
INFPは俯いたまま、動かなかった。
『ESTP』
『〈突撃兵(ブレイカー)〉』
短距離、最大火力。
考える前に、壊す。
『ISTP』
神は、面白そうに言う。
『〈生存者(サバイバー)〉』
それを聞いても、
ISTPは表情一つ変えなかった。
もう、受け入れている。
『ISFP』
少し探すように、神の視線が動く。
『〈影(シャドウ)〉』
姿を見せない。
気配だけが残る。
『ESTJ』
『〈管理官(マネージャー)〉』
秩序を作る者。
秩序に縛られる者。
『ESFP』
『〈演者(パフォーマー)〉』
場を動かす。
空気を変える。
でも、舞台を降りた後は――。
神は、一通り言い終えると、満足そうに言った。
『どう?
これで、少しは“物語”っぽくなったでしょ』
誰も笑わない。
名前は、
ラベルは、
逃げ道を塞ぐ。
呼ばれ続ければ、
そう“振る舞わされる”。
俺は理解していた。
これは親切でも、演出でもない。
役割の固定化。
そして、
死に方の下書きだ。
『さあ』
神が言う。
『名前も付いたことだし』
声が、少しだけ低くなる。
『第2幕、始めようか』
その瞬間、
全員が本能的に距離を取った。
INTJではない。
INFPでもない。
これからは――
〈設計者〉〈核〉〈王〉〈影〉。
名前がある限り、
物語は、容赦なく進む。
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